国内 2023.07.05

「兄弟でプロラグビー選手になる」。帝京大SH李錦寿、朝鮮大SO李智寿

[ 見明亨徳 ]
「兄弟でプロラグビー選手になる」。帝京大SH李錦寿、朝鮮大SO李智寿
弟の李智寿(朝大)はファーストタッチでトライをダイブで決めた(撮影:見明亨徳)


 7月2日、秩父宮ラグビー場では「第11回 関東大学ラグビーオールスターゲーム」がおこなわれていた。対抗戦A、リーグ戦1部の上位からリーグ戦5部や理工系、医歯薬系、クラブチームセブンズ優勝校までカテゴリーは異なる選手たちが集まった。この中にピッチに立った兄弟選手がいた。
 大学王者、大学選手権2連覇を誇り今春の春季大会Aグループでも圧倒的な強さを見せた帝京大で、1年生からSHとしてチームに貢献し続ける現3年生の李錦寿(り・くんす)。そして、リーグ戦2部に所属し、毎年部員不足に悩みながら3部との入替戦に勝ち残留を決めてきた朝鮮大に今春入学したルーキー、SOの李智寿(り・ちす)だ。2人は大阪朝鮮高出身。

 最初に登場したのは弟の智寿。リーグ戦2部選抜と対抗戦B選抜のセブンズ戦。チームが前半わずか3分間で3トライ3ゴール、21-0とリードした4分に入替でグラウンドへ。2分後敵陣22メートル線でボールをもらうとディフェンスを破り、インゴール中央へ豪快に飛びこみ5トライ目を奪った。リーグ戦2部選抜が計9トライで63-0と大勝した。

 「最初はすごく緊張していました。ファーストタッチでトライを取れて良かった。朝大の応援も聞こえました。秩父宮は初めて。めちゃ人が多くて歓声もあっていい雰囲気」。智寿は、聖地を存分に楽しんだ。兄とは出場が決まると「お互い頑張っていいプレーできれば」と話してきた。

朝大選手たちが智寿のトライを称える(撮影:見明亨徳)

 最強チームにいる兄とは別の道を歩んだ。
 4月、入学直後の取材では「ふたりともプロのラグビー選手になる目標は同じです」と決意を語っている。智寿がリーグ戦2部選抜に選ばれたのは、4月16日にリーグ戦加盟校でおこなわれた「第37回 関東大学ラグビー連盟セブンズ大会」での活躍だ。1回戦で強豪・流通経済大を33-29で破る大金星に貢献。呉衡基監督の推薦で秩父宮へ。「お兄ちゃんと同じところでプレーできて一歩、近づいたかな」と感じた。

 グラウンドの温度が40度近い蒸し暑い一日。メインスタンドで兄弟を応援していたのは両親。父・李鳳泰さん(り・ぼんて)と母・徐麻理さん(そ・まり)。それに長男の李博寿さん(り・ぱくす)。博寿さんも大阪朝高-朝鮮大を経て今は東京闘球団高麗で楕円球を追う。3兄弟をラグビーの道に引き込んだのは鳳泰さんだ。大阪朝高でHOを任された。高校卒業後は仕事に就いた。後、今年40年目を迎える兵庫県にある尼崎ラグビースクールのコーチへ。子どもたちは小学生のときに同スクールでラグビーを始めた。

 弟2人も大阪朝高に進んだ。錦寿は2018年度、1年生の時に全国高校大会に出場。この時の3年生でCTBは今や日本代表SOまで成長した李承信(り・すんしん。コベルコ神戸スティーラーズ)だ。「すんしんさんはCTBだったのでハーフ団は組んだことはありません」という。3年時は主力SHとして第100回記念全国大会(2020年度)に出場、同校3度目の全国4強入りを果たした。智寿も1年生ながらSOの控えでメンバー入り。2回戦の昌平高戦で後半18分からピッチへ。兄とハーフ団を組んで43-0と勝利した。

 その智寿について父は「今日はまぁまぁ」と控えめに評価した。母は「子どもたちはラグビーを通じてたくましくなり人間的に成長しています」と見つめる。「智寿がトライを決めたのは嬉しい。(プロが目標)とても頼もしい弟たち」(博寿さん)

李兄弟を見守る父・李鳳泰さんと母・徐麻理さん(撮影:見明亨徳)

 次兄の錦寿は大会を飾る最後の「対抗戦選抜 対 リーグ戦選抜」の15人制競技に出場した。対抗戦選抜は錦寿を含めて先発15人中8人が帝京大。のこり7人は明治大が6、筑波大1という布陣。
 前半から点を奪い合うシーソーゲーム。錦寿は明大4年SO伊藤耕太郎とハーフ団を組んだ。「ふだん戦っている相手と一緒にラグビーができて新鮮でした(伊藤とは)ちゃんとコミュニケーションが取れてやりやすかった」。心強かったのは先発フォワード8人中6人が帝京大。「帝京のフォワードは強くてラックなどから球出しをする際、気持ちよくできます」。この日も素早くラックなどに走るとリズムよく球をさばいていた。前半で退く(最後、後半36分から再登場)。

 試合は前半残り10分でリーグ戦選抜が逆転し、26-19で折り返した。後半は15分から31分までに対抗戦選抜が4連続トライで33-43とする。しかし、リーグ戦選抜が残り10分間でまたも2トライを奪い43-43で引き分けた。

この日も素早い球さばきをみせた兄・帝京大SH李錦寿(撮影:見明亨徳)

 錦寿は帝京大を「ラグビーに集中できるすごい環境です」と話す。それも大阪朝高でラグビーをしていたから感じることだ。「朝高の時は、帝京にない環境の中でラグビーを全力でやるために考えていた。それがあったからこそ帝京に来てありがたい」。この日、智寿の試合を映像で見ていたがトライシーンは見逃した。「朝大も頑張っているので一度、試合(15人制)をしたいです」

 3年生になり卒業後の進路も考えている。「リーグワンのいくつかのチームからお話をいただいています。正直、迷っています」という。その先も見据える。「プロでリーグワンのチームに入り努力して日本代表になること」。「すんしんさんの活躍が刺激になっています。高い目標ですが日本代表でハーフ団を組めれば」。

 朝大の智寿もプロを見るうえでの先輩がいる。朝大からクボタスピアーズ船橋・東京ベイに進んだWTB/FB金秀隆(きむ・すりゅん)の存在だ。上位校にいなくとも、この大会のようにすべてのカテゴリーが集まる場でアピールできる。あるリーグワンチームの目利きスタッフが話した。「智寿いいですね」

 今秋、智寿はリーグ戦2部優勝、1部昇格を目指す。錦寿も大学選手権3連覇達成という目標に貢献したい。朝大が来季、1部に上がると両校が対戦する機会のきっかけになるか。

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