世界とつながるのが楽しい。関西学院大・小林典大、U20日本代表で広げるビジョン。
気づけば進歩していた。関西学院大ラグビー部2年の小林典大には、その感覚があった。
2月に始まった20歳以下(U20)日本代表のセレクションキャンプへ、3月の第3回から呼ばれてきた。その都度、劇的な変化を実感したわけではない。しかしその活動を終え、大学のグラウンドへ戻ると、確かな手応えを感じられたという。
「走れるように、周りが見えるようになってきた」
キーワードは「KFC」。U20日本代表のロブ・ペニー ヘッドコーチが唱える、「首振りコミュニケーション」という造語である。常に「首」を「振」って全体を見回して戦うよう意識させる。
それに倣うことで、「プレーに余裕が生まれるようになってきた」と小林。その世代のエリート同士のトレーニングで「余裕」があるのだとしたら、自身の所属先へ戻ればさらに抜きんでて映るだろう。
「大学の監督にもそう(成長したと)言われて、自信、ついてきています」
FW第3列のFLを務める。身長185センチ、体重100キロと恵まれたサイズを、特に攻撃で活かす。
戦術上、「エッジ」と呼ばれるグラウンドの端側に立ってチャンスメイク。京都成章高の在学中まではCTBだったとあり、ランニング、パス、キックのスキルに長ける。
もっとも、パスを受ける前の動きには改善の余地があるらしい。周りとの連係、ポジショニングをより磨きたいと話す。
「ボールを持ったら、なんとかできる。ボールをもらうまでのプロセスを大事にしたい」
5月上旬にジュニア・ジャパンとして臨んだサモアでのパシフィック・チャレンジ、同月27日の対ニュージーランド学生代表戦では全4試合に出て2勝2敗。その間、本人も強みを発揮し、6月24日からのU20チャンピオンシップへ挑むメンバーに入った。
「楽しんでやっています。試合前もリラックスしています。桜(日本代表のエンブレムつきジャージィ)を背負っているのですけど——言い方は悪いですが——それを忘れるというか。楽しくやったほうが、いいこと起こるような」
高校3年時は、U20で司令塔の座を争う大島泰信をチームの主将に据えて全国8強入り。湯浅泰正監督には多くを学んだ。
タックルの間合い、試合前に緊張感をコントロールする術…。心を乱さないよう丹田に力を込めるルーティーンは、湯浅の教えをもとに採り入れているようだ。
「湯浅先生にはお前はディフェンスが課題やとずっと言われていました。僕は結構、(相手が走り込んでくるのを)待ってしまうのですが、湯浅先生は『待つな! 刺され!』と。いまの僕のディフェンスを見ても湯浅先生は怒ると思います! …ただ、湯浅先生の指導が好きです。説明もわかりやすくて、的確。しっくりきます」
進学先は関西学院大にした。関西大学Aリーグ加盟のこのチームは、誘われていた他の強豪大よりも学生の個人活動に大らかな印象があった。ラグビーそのものも学生主体で動かす。
小林は海外志向が強い。もともとは大学にいる間、ワーキングホリデーを利して英語を学びに行こうと考えていた。父方の親戚がオーストラリアに住んでいて、1つ年下のいとこがラグビーをしているのに影響される。
今回のU20の候補合宿では、イングランドで生まれ育ったLOのハリー・ウィラードと同部屋となる。母が関西出身で日本語を覚えたいウィラードと、日常で英語を使いたい小林はシンクロする。
「結構、しゃべれるようになってきています。女の子の話、家族の話、友だちの話もします」
最近のパフォーマンスを受け、小林はラグビー選手としての市場価値を高めるかもしれない。国内リーグワンのクラブから注目されそうななか、「海外で働いてみたい。もちろん、(現地で)ラグビーもしてみたいです」。競技で道を切り開くのを軸に据えながら、将来の選択肢を多く持ちたい。