足技と献身。スピアーズ日本一までの団結。

振り返れば、ウォーミングアップの段階で意思表示をしていた。
5月20日、東京は国立競技場。
クボタスピアーズ船橋・東京ベイは、折に触れ何度も円陣を組んだ。
これから立つのは国内リーグワンの決勝。初めての舞台へ挑むにあたり、互いの顔、目を見て、口頭での確認を繰り返していた。
選手のひとりが説く。
「(事前に)もっとコネクションを保とう、という話が出ていました。それで、(円陣が)多くなったかもしれないです」
対する埼玉パナソニックワイルドナイツは、淡々と準備を重ねた。旧トップリーグ時代から通算して2連覇中の青い壁にあってHOの坂手淳史主将は前日までにこう述べていた。
「自信は――どっちもだと思いますが――あります。チームとしてどう強くなるかのプロセスを楽しんでいる。そこに対しての不安はいまのところないです。準備はすでに終わっているので」
試合はスピアーズが制した。第14節まで公式戦47戦無敗の王者を17-15で下した。
ワイルドナイツが序盤からダイレクトタッチ、パスミスを重ねるなか、スピアーズでは、「ベーシックなことをやり切れた」とフラン・ルディケ ヘッドコーチ。こちらもエラーに泣くことはあった。総じてキックを有効活用。下馬評を覆すため道筋を作った。
対するFBの野口竜司は捕球、蹴り返しの技術で高水準を保つ。その相手の強みを、スピアーズはあまり出させないよう準備していた。
リザーブに入ったSHの藤原忍はこうだ。
「なるべくノーバウンドで(キックを)捕らせないように、背走させてキャッチさせるなどして、相手の蹴りやすいようにキックを蹴らせないことは心がけていました」
CTBの立川理道主将は続ける。
「いろんなバリエーションを持って相手にプレッシャーをかけていこうと。高いキック、スペースに落とすキック、グラバーキック、ハーフからのチップキックと、バリエーションを持って、どんなキックが来るのかわからないように戦術を組んできました」
ワイルドナイツ陣営が「うちをよく研究していた」とうなったのは、前半12分頃のプレーだ。
スピアーズは、ハーフ線付近右のラインアウトから球を出す。接点よりやや離れた位置から、先発SHの谷口和洋が蹴る。飛び出す防御網と後衛との間へ落とす弾道だ。
処理に走ったのは野口だ。後衛の位置から駆け上がって捕球を試みるも、ファンブルしてしまう。
ボールの転がる場所には、スピアーズの面々が殺到した。そのひとりの谷口が再獲得し、CTBのライアン・クロッティ、WTBの木田晴斗とつないで左大外の穴を突いた。
ここでは相手WTBのマリカ・コロインベテが逆側の持ち場からカバーに回ってトライを防ぐも、スピアーズの作戦が光ったのは確かだった。
その後もスピアーズは、立川の言う通り「どんなキックが来るのかわからないよう」に試合を運んだ。
27分頃にあった自陣スクラムからの攻めでは、左側から左タッチライン方向へのキックで相手防御の背後を突き続けた。
6点あったリードを6-3と詰められて迎えた34分頃には、自軍キックオフを敵陣10メートル線付近左へ蹴って確保。ここから右へフェーズを重ね、右奥の野口が前がかりとなるやその背後をSOのバーナード・フォーリーが突いた。ロングキックで陣地を確保した。
直後の攻防でドロップゴールを狙ったフォーリーは、38分、味方のハイパントとキックチェイスで獲得したペナルティゴールを決める。9-3とリードを広げる。
立川はこうだ。
「ハイボールを蹴るにしても(味方が弾道を)チェイスができる距離感、高さにコントロールしよう(と意識していた)」
時間が経つほどにねじの引き締まったワイルドナイツに、12-15とリードを許したのは後半25分。スピアーズはここで、改めて円陣を組んだ。立川は言った。
「ここで戦術を変えたら、相手の思うつぼ」
勝ち越されたところで足並みがそろわぬまま攻めに出て、足元をすくわれるのが対ワイルドナイツ戦のワーストパターンだ。それまでと同様に蹴ってチャンスをうかがうよう、まとまって、打ち合わせた。

約9分前に投じられた藤原は、こう実感していた。
「自分の仕事をやることにプラスして、エナジーを上げられるように意識しました。ただ、皆がいい顔をしていて、逆にエナジーをもらえました」
29分。直後のキックオフの攻防を経て、敵陣10メートル線付近でラインアウトを獲得した。
本来はその場でモールを組み、その後方から藤原が高い弾道を蹴る予定だった。実際には相手にモールを阻まれるも、しばらく接点を刻んでから藤原は予定通りのキックを放つ。
敵陣22メートル線付近へ落とすよう蹴り、左側に並んだNO8のファウルア・マキシ、WTBの根塚洸雅が球筋を追った。根塚の述懐。
「(蹴り合いは)今週、キーになると思って、そこから相手にどうプレッシャーをかけるかを意識し、ハードワークしようとしました」
向こうから走り込んでくるのは野口。飛ぶ。シーズン中、何度も成功していたジャンピングキャッチを試みる。
しかしここでは、マキシが空中で競った。野口を保護するワイルドナイツの選手がいないなか、野口はマキシに捕球を乱された。ルーズボールを見送る。
「自分のなかでは(落下地点への)入りもすごくよかったのですが、フィジカルの強い選手にぶつかられてお互いが捕れない状況に。これから修正するのであれば…。もう少し相手の側に入り込んでスペースを確保する(身体を差し込んで邪魔されずに捕球できるようにする)工夫は必要なのかな、と思います」
球を拾ったのは、根塚だった。
次の瞬間、ラックからパスをもらった立川が左大外へキックパス。無人のスペースを駆け抜けた木田が17-15と逆転し、そのまま、優勝した。
殊勲のマキシと根塚はこの日、鋭い出足の防御でも奮闘した。根塚はこうも喜んだ。
「ワイルドナイツさんはひとりひとりが強く、つないで一気に(トライを)獲るイメージが強かった。内側の選手と連携が取れている時は思い切って上がって、簡単に(パスを)放らせないようにプレッシャーを。『余られている(自分たちより相手側の人数が多い局面を指す)』時は自分で何かをしようとするのではなく、内側(サポート)を待ちながら、がまんして、止め切る」
ワイルドナイツはエラーに泣いた。球を蹴り返す際には、バウンドさせずにフィールドの外へ出してしまうダイレクトタッチを連発。自慢の防御で攻守逆転を決めながら、スペースへ振ったパスをつなげられないこともあった。
途中出場したHOの堀江翔太はこうだ。
「前半、(点を)獲れるところを獲れなかった。決勝の舞台であったり、いろいろな要因であったりで、プレッシャーを感じていたのかなと。それはチームどうのこうのというよりか、個人でどう持っていくか。ラグビーって、メンタル競技なので」
それでも一時勝ち越したあたりに底力を滲ませた。堀江は続ける。
「実際、逆転もしました。最後、サイコロを振ったら、スピアーズに転がった。僕は、そう思う。(相手のキックを)竜司が捕れんのやったら、誰も捕れないので、しゃあないなと思っています」
本来なら大敗しかねぬほど失敗を重ねながら、随所に堅守を披露して最後の最後まで接戦を演じた。勝った立川が「きょうの試合を作り上げたのは両チーム。そこに敬意を表しながら、喜びたいと思います」と話すのは、自然な流れだった。