国内 2023.06.06

松田力也の決勝戦。順調に復帰も悔しい体験。「見つめ直す」

[ 向 風見也 ]
松田力也の決勝戦。順調に復帰も悔しい体験。「見つめ直す」
リーグワン決勝後、スピアーズの立川理道と話すワイルドナイツの松田力也(撮影:松本かおり)


 キックオフ早々に頭を強打していた。本人も憶えている。

「いちばん、はじめのシーンだったと思うんですけど」

 ラグビー日本代表の松田力也は、5月20日、東京の国立競技場にいた。

 埼玉パナソニックワイルドナイツのSOとして、国内リーグワンの決勝に先発した。

 問題のシーンでは、対するクボタスピアーズ船橋・東京ベイの立川理道主将へタックル。しばらく倒れたままだった。

 以後、起き上がってプレーに参加も、生来の判断と技能を発揮できずにいた。

 11分、ペナルティゴールを失敗した。レギュラーシーズンでベストキッカーに輝くほどの成功率を誇るが、この時は軌道をそらした。

 その直後には、ハーフ線付近左中間から左端にかけてのハイパントをダイレクトでフィールドの外へ蹴り出してしまう。本来ならボールや陣地の再獲得を目指すプレーだったが、蹴った位置の近くで相手のリスタートを許すこととなった。

 それぞれの動きについて、松田は技術的な問題点のみを振り返る。

「そこは自分のスキル不足、自分の力量です。見つめ直してやらないといけない。僕自身の3点(の有無)がチームの勝利に直結したと思っています」

「(ハイパントは)相手側からのプレッシャーもありました。ちょっと(球に足を)ひっかけたところがあった。(タッチラインの中に)残ってくれ、とは思いましたが…」

 序盤のトラブルを言い訳に用いることは、なかった。

「僕自身は何もなかったという思いです。あとから周りに聞けば『いつも(通り)ではなかった』と。でも、それがラグビーなので。引きずってはいなかったです」

 その後もスペースへのキックなどで活路を見出そうとしたが、リズムに乗れなかった。

 何より仲間もエラー続きだった。その背景を司令塔は説く。

「この素晴らしい決勝の舞台で、ひとりひとりがいつもより…。(呼吸が合わずに)パスがつながらないなど、自分たちらしくないミスを続けてしまった。その流れのなかに、僕も飲まれてしまった。打開できればよかったのですけど…」

 結局、3-12とビハインドの後半15分に交替。その後、チームは一時、勝ち越しも、15-17で敗れた。国内タイトル3連覇の願いがついえたのを受け、松田はフィールドで涙を流していた。

「チームを勝利に導けなかったことはすごく責任を感じているので。泣きたくはなかったですけど、メンバーの顔を見た時にこみ上げてくるものはありました」

 身長181センチ、体重92キロの29歳。昨年5月に左膝前十字靱帯(じんたい)を断裂も、佐藤義人トレーナーとのリハビリとトレーニングで強靭さを得た。

 相手FWとのコンタクトで引けを取らぬようになり、故障前に積み上げてきた戦術理解度やパス、キックの技能は担保したままシーズンを走破。今秋のワールドカップ・フランス大会でのスターター定着を目指すなか、バージョンアップを実感できた。
 
 今度のファイナルは、その矢先にあった。

「僕自身、オペをしてから(5月)23日で1年が経つんです。この舞台に立てたこと、4万人を超えるファンの皆様(公式で観客数41,794人)の前でプレーできたことは嬉しく思います。ただし、負け。自分自身、見直さなきゃいけないことはたくさんある。この悔しさを忘れず、次の舞台に向かっていきたいと思っています」

 6月12日からは、日本代表のキャンプに参加する。

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