国内 2023.05.07

「来たな」と強烈な一撃。坂本侑翼(相模原DB)、先勝の入替戦初戦でプレーヤー・オブ・ザ・マッチ

[ 編集部 ]
「来たな」と強烈な一撃。坂本侑翼(相模原DB)、先勝の入替戦初戦でプレーヤー・オブ・ザ・マッチ
タックルで魅せる男、坂本侑翼。24歳。(撮影/イワモトアキト)



 グリーンのジャージーの背番号7は、この日も観る者を楽しませた。

 5月6日、パロマ瑞穂ラグビー場でおこなわれたリーグワンのD1-D2入替戦。三菱重工相模原ダイナボアーズ(D1=10位)が豊田自動織機シャトルズ愛知(D2=3位)に59-21と快勝した。

 5月14日、同カードの第2戦がおこなわれる。2試合の合計勝ち点などで争うレギュレーションだ。
 5ポイントを獲得したダイナボアーズは、D1残留に前進した。

 初戦のプレーヤー・オブ・ザ・マッチ(以下、POM)に選ばれたのがFL坂本侑翼(ゆうすけ)だった。
 本人が「選ばれるとは思わなかった」と言うのは、活躍した選手が多くいたからだ。

 この試合でチームが挙げたのは9トライ。SH岩村昂太主将、WTBタウモハパイ ホネティはともに2トライで、計7人のトライスコアラーがいた。
 坂本自身も「みんながトライしていたので(自分はないと思っていた)」と照れた。

 選者が緑の7番をPOMとしたのは、序盤の20分で4トライ、26得点を挙げたスタートダッシュの中、ブレイクダウンワークで奮闘し、80分を通していつものように強烈なタックルを繰り返したからだろう。

 特にハードタックルで輝いたのは、後半22分過ぎだった。
 ダイナボアーズのSOマット・トゥームアがゴールラインドロップアウトのキックを蹴り込んだ直後だった。

 それを受けたシャトルズCTBジョー・カマナがタリフォロフォラ・タンギパにパスする。
 186センチ、120キロの巨漢は小柄な男をターゲットに向かって走り、渾身の力でクラッシュした。

 176センチ、95キロの坂本は、「来たな、と思った」と振り返る。
「まっすぐ、こちらに当たってくる。僕の得意なケースでした。しっかりタックルが決まってよかった」

 いつも通り、相手の腹のあたりに、トップスピードで入った。
 その瞬間、ボールがこぼれる。
 ノックオンを誘うと、スタンドからどよめきの声があがった。

 マストウィンの入替戦に、「(上位同士の)プレーオフではありませんが、決勝のつもりで臨みました」と話す。
「チームとして、ディビジョン1で培ってきた経験と自信を出そうと臨んだ試合でした」

「三菱のDNAを出そう」とチームは結束していた。
 いつも通りにハードワークを。ディシプリンの大切さはシーズンを通して学んできた。積み重ねてきたことをすべて出し切り、楽しもうと覚悟を決めてピッチに出た。
「チームとして戦えている感覚があり、楽しかった」と笑顔を見せた。

 坂本は、2021年春に流通経済大からチームに加わった。
 リーグワン元年は出場なし。実質的に、今季が最初のシーズンだ。

 今季はレギュラーシーズン16試合のうち13戦に出場(12戦先発)。23-19と勝った東芝ブレイブルーパス東京戦で猛タックルを連発するなど、その存在は注目を集めた。

 本人は、シーズンを通して高いパフォーマンスを出せていることを振り返り、「タックルのスキル練習を続けてきました。ディビジョン1のフィジカルにも慣れ、それを出せるようになってきたと思います」と自己分析する。

「ブレイクダウンのクリーンアウトなど、まだまだやっていくべきことは多い」と、成長できる領域がまだまだたくさんあることも理解している。

 小柄も、大きな相手をハードヒットで仕留められるのは、自分のスタイルを確立しているからだ。
「体重が軽いので、入るスピードにはこだわっています。行くと決めたら思い切り、トップスピードで入る」
 自身が受けるダメージも大きいが、その強度が当たり前になってきた。

 順調な時期ばかりではなかった。
 怖いもの知らずのシーズン前半はうまくいった。しかし、やがて「もっともっと、やろう」という意識が出たところで迷いが生じた。
 タックルミスが目立つようになった。

 ふたたび調子を取り戻せたのは、メンタルコーチのアドバイスを受けたことがきっかけだった。
「やるべきこと、スキルを整理して、それを遂行するために何をすべきかを考える。その準備をして、試合に臨む。それを毎週くり返しました」

 グレン・ディレーニー ヘッドコーチも、坂本の成長を認める。
「こんなにはやく、ディビジョン1の強度に慣れた選手を見たことはありません。シーズンを通して安定したパフォーマンスを出してくれた。ラックに入るときの判断、タックルスキルが素晴らしい」

 入替戦初戦のPOM選出についても、「彼の働きを見ていてくれた証拠」と指揮官は喜んだ。
「赤と白のジャージーを着る選手になれる。なってほしい」と続けた。

 本人もシーズンを通してプレーをして、「ジャパンのジャージーを着たい気持ちが出てきました。ただ、足りないことがたくさんある。目標に届くように成長していきたい」と前向きだ。

 オーストラリア代表、ワラターズで活躍する、世界的FLマイケル・フーパーに憧れる。
 先輩で、今季からチームのスタッフとなった元FL、小林訓也採用担当を尊敬。1シーズンをともに過ごした職人のことを、現在も師匠のひとりとして信頼する。

「いまもグラウンドに来られた時には、いろいろ聞いています。クリーンアウトのことや、タックルの細かいスキルのことなど、学ぶことが多くあります」

 今季のラストゲームは5月14日、海老名運動公園陸上競技場でふたたびシャトルズと戦う。
 もう一度、チームとして戦っている感覚を味わいたい。何度でも、ハードタックルを見舞う。

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