「いいリハーサルができた」。クウェイド・クーパー［花園近鉄ライナーズ／SO］、待望の復帰

　チームも、ファンも、遠くオーストラリアにいる代表監督も、待ち望んだ瞬間だっただろう。

　4月22日。クウェイド・クーパーが復帰した。

　ワラビーズの10番を背負った昨年（2022年）8月のアルゼンチン戦で、左アキレス腱を断裂。長い長いリハビリ期間を経て、実戦復帰を果たした。

　クーパーはこの日、リーグワン・ディビジョン1のリーグ戦最終節に臨む。
　花園近鉄ライナーズの10番を背負った。

　久しぶりの試合機会を噛み締める。ゆっくりと入場し、天を仰いだ。
「こうした瞬間は誰にでも与えられるわけではなく、やはり特別な瞬間です。時間は限られてますし、私も年齢を重ねてきていてチャンスも限られている。一瞬一瞬に感謝していました。選手にとっては特別な場所であるロッカールームに入る、ファンの前でフィールドに走り出す、そうした一瞬一瞬が楽しかったです」

　出番は一瞬だった。
　対するグリーンロケッツ東葛の試合開始のキックオフを味方がノックオン。すぐさま交代が告げられた。

　水間良武HCが意図を説明する。
「出場資格を得るために、ワンプレーだけ出るというのが今日の彼の役割でした。入替戦の出場が決まってからいろいろなストーリーを考え、勝ち残るには”クウェイド・クーパー”というカードを持っておく必要があると判断しました」

　というのもリーグが定めるカテゴリーB、Cの登録枠の関係で、ライナーズはクーパーの復帰直前まで今季の選手登録を見送っていた。追加登録で入替戦に出場するには、リーグ戦で1秒でもピッチに立つ必要があったのだ。

「もっとプレーすることは可能でしたが、重要な2試合（入替戦）を控えている。ここで万が一ケガでもしてチームに迷惑をかけるようなことのないように」と、クーパーは付け加える。
「その分、ウォーミングアップや前半30分まででフィットネスをやりました。そうした達成しなければいけないチェック項目を今日もやり切った。復帰することに自信を持てています」

　豪州でおこなっていたリハビリを終え、3月中旬にチームに合流。12月末に開かれたリーグワンの開幕直前メディアカンファレンスに出席した際には、リハビリ中の思いを語っていた。

「人生と一緒ですよね。物事は必ずしも計画通りにはいかない。いずれ治ればまたプレーができるし、そんな日もあるよ、という感覚でした。悪い日があるからこそ、良い日を楽しめますから。その日のために良い習慣、良いルーティンを徹底する。それができていればどんな困難なことでも乗り越えていけると信じて過ごしています」

　豪州では新たに同国の代表監督となったエディー・ジョーンズとも面会。4月上旬に同監督が始めておこなったキャンプにも、マリカ・コロインベテ（埼玉WK）ら国外でプレーする選手たちとともにオンラインで参加していた。

　それでもクーパーは、「誰かに見られているとか、そうしたことは気にしないようにしている」という。
「代表監督が見てる試合では、それは誰でも頑張れるでしょう。誰にも見られていない時、つまり日々のトレーニングでどれだけ努力できるか、そこが重要だと思っています」

　いま見据えるのは、浦安D-Rocksとの入替戦だ。加入4シーズン目にして、ようやく掴んだトップディビジョンの舞台から降りるわけにはいかない。
「今日はたった数秒の出場でしたが、試合に向けた準備を経験できた。朝起きて、ストレッチして、朝食を摂る。そうした試合の日にやるべきことをやれた。（入替戦に向けて）いいリハーサルができました」

　もっとも、出場する前からチームには良い影響をもたらしていた。前節の神戸S戦でチームの初勝利に貢献した、アーリーエントリー組のCTB金澤春樹は、「クウェイドからアドバイスをもらって、どんどん良くなっている」と体感を語っていた。

　野中翔平主将も振り返る。
「クウェイド・クーパーという選手は、僕が出会ったラグビー選手の中で一番細かい。想像を絶するぐらいの細かさです（笑）。ファーストフェイズで当てる位置が1㍍違うと、プレーを戻しますから。そういう彼のこだわりがチームのプロセスをいい方向に持っていってくれている。プレーするしないにかかわらず、チームにいい影響を与えてくれます」

　この4月に35歳を迎えた老練なファンタジスタは、「あと4年は日本にいたい」と言ってファンも喜ばせる。
　前述のメディアカンファレンスでは、自身の競技人生にも触れながら、日本ラグビーへの熱い思いも語っていた。

「リーグワンは世界で一番楽しいリーグです。トライ数が多くて、キックが少ない。展開も速くて、こんな楽しいラグビーはないでしょう。ラグビーとはそういうスタイルであるべきだと思っています。リーグはこれからどんどん成長するでしょうし、その一部であり続けたい。自分がいない間に成長していくところは見たくないです。チームの中で自分が一番手だと思えているうちはプレーを続けたいですね」

　日本でのプレーをより長く楽しむため、まずは入替戦でチームを救いたい。