【コラム】若者に時間と機会を――高校ラグビーへの期待。
並みいる強豪を圧倒した迫力あるパフォーマンスは、単に準備期間の違いだけでは説明がつかないほどの力の差を感じさせた。一方でこれまではやりたくてもできなかったパートにじっくり手をつける時間ができたことで、ポテンシャルがさらに引き出されたのも確かなのだろう。そこに危機感と雪辱への強い思いが重なった結果が、今回の圧勝劇だった。
そしてここで思考は飛躍する。花園に出場したチームも同じようにしっかりとステップを踏んで臨めば、選抜大会はよりハイレベルで実り多い機会になるのではないか、と。
試合続きで本来必要な基礎練習や心身のコンディショニングに取り組む時間がほとんどない――という声を、これまで強豪校の指導者からしばしば耳にしてきた。花園後に前年度のチームから代替わりするや、息つく間もなく新人戦が始まり、ブロック新人大会、全国選抜大会と強度の高い公式戦が続く。5月6月には春の都道府県大会とブロック大会が行われ、7月の全国7人制大会、8月の夏合宿とブロック国体を乗り切れば、もう花園予選は目前。まさに「目の前の試合をこなすだけで精一杯」という状況だ。
そうした過密スケジュールの解決策として、近年高校ラグビーの現場でよく取り沙汰されるようになったのが、「全国選抜大会と全国7人制大会の時期を入れ替える」というアイデアである。7人制大会を3月末に移動し、春の都道府県大会、6月のブロック大会を経て、7月に選抜大会を開催する。これなら花園出場校も、1月から4月までのほとんどをケガからの回復やベースアップにあてられる。予選敗退したチームにしても、たっぷりある準備期間を活用してより強固な礎を築けるだろう。実戦経験の不足は、計画的に練習試合を組むことでカバーできるはずだ。
「春に7人制、夏に選抜」のスケジュールは、部員不足に悩むチームにも大きなメリットがある。3年生の引退後、1、2年生だけで15人をそろえられる学校はいまや少数派だ。高校ラグビー最激戦区、大阪ですら今季の新人戦出場は合同チームを含めて「26」。香川県は新人戦に単独で出場できる学校がなく、県内の全部員となる20名で香川合同として四国新人大会に出場している。
15人制では人数が足りないチームでも、7人制なら出場の可能性は確実に広がる。さらに選抜大会を夏開催にすれば、新1年生を加えた3学年でチャレンジできるので、3月時点でメンバーが足りない学校にもチャンスが生まれる。受験に向け夏で部活動を引退する生徒にとっても、区切りをつけるいい目標になりえる。
冬の花園をめぐっては昨秋、鳥取県で単独チームとしてエントリーできる学校が1校しかなく、予選で1試合も戦うことなく出場が決まるという事態が発生した。これは、たまたま起こった異例の出来事ではない。競技人口の減少、特に高校ラグビーの部員減は、想像以上のスピードで進んでいる。このままなら早晩、他の地区でも同様のケースが相次ぐだろう。
今年度から合同チームでの花園出場が認められるようになったのはひとつの前進だ。ただしそれはあくまで少人数チームで活動する選手の救済策であって、競技人口減少の抜本的な解決策にはならない。現在の時代背景やスポーツに求められる意義をふまえた上で、より多くの高校生たちの想いに応えられる形へと変えていくことが必要だと考える。
この点で個人的にもっとも重要と感じるキーワードは、「均衡」と「安全」である。