海外 2023.04.26

歴史と強さの継承を。トゥーロンが『Hall of Fame』を設立

[ 福本美由紀 ]
歴史と強さの継承を。トゥーロンが『Hall of Fame』を設立
笑顔のトゥーロンOB、ジョニー・ウィルキンソン氏。(Getty Images)



 去る4月15日、トゥーロンのホームスタジアムであるスタッド・マヨールに、ジョー・ファンニーケルク、バッキース・ボタ、ブライアン・ハバナ、ソニー=ビル・ウィリアムズ、カール・ヘイマン、マット・ギタウ、ドリュー・ミッチェル、フアン・マルティン・フェルナンデス・ロベら、かつて銀河系軍団と呼ばれ、トゥーロンの名前を世界に知らしめた選手たちが集結した。
 まるで10年前に戻ったようだった。

 この度、トゥーロンは独自の『ホール・オブ・フェイム(Hall of Fame)』を設立した。フランススポーツ界では初めてのことだ。
「秀でた活躍、功績、影響力でクラブの歴史に足跡を残した人物を記憶に留め、オマージュを贈る場になる」と、ベルナール・ルメートル会長が設立の意義を説明する。

 この式典に出席するために駆けつけた銀河系OBと地元サポーターとの再開の場となったスタッド・マヨールは満員御礼となり、1万8000人のサポーターの前でトゥーロンはペルピニャンにボーナスポイント付きの勝利をあげた。
 スタッド・マヨールが満員になったのは2019年12月以来のことだという。

 試合の3日後、『ホール・オブ・フェイム』のレセプションがおこなわれた。150人余の現役、OB選手を含む400人が出席し、中にはモナコ公国のアルベール2世とシャルレーヌ公妃の姿も見られ、参加者全員に三ツ星シェフのフルコースが供されるという豪勢な会になった。

 この殿堂入りは、ルメートル会長やクラブ関係者、ラグビー関係者、スポンサー、トゥーロン市で構成された選考委員会とサポーターの投票で選ばれる。
 今回は、1931年に初めて国内優勝したチームのキャプテンや、トゥーロンの試合前のチャント『ピル・ピル』を作った1940年台の選手から、2013年に初の欧州チャンピオンとなったチームの共同キャプテンだったファンニーケルクとジョニー・ウィルキンソンら8名が選ばれた。

 殿堂入りに選ばれた選手が順番に壇上に上がり、現役時代の活躍を紹介する動画が映し出され、記念盾とブレザーが贈られる。
 クラブの115年の歴史を感じさせられる。

 この式典の前にはトレーニンググラウンドでウィルキンソンが現役の選手にキックのセッションを行い、ドロン・アーミテージ(FB/WTB)も若い選手にハイボールキャッチの指導にあたった。
 2部リーグから加入した選手や最近エスポワール(アカデミー)から上がってきた選手も多く、クラブのレジェンドからスキルのアドバイスをもらえる幸運を堪能した。

 他の銀河系OBもクラブハウスで昼食をとり、コーヒーを飲みながら、選手と交流した。

 これこそが、今の若いチームに足りなかったことではないか。

 現在トゥーロンに在籍している選手の半数は2021年以降に、7割が2019年以降に入団しており、銀河系世代の選手と会ったことがなかった。
 銀河系時代を経験しているのは、NO.8マチュー・バスタロー(当時はCTB)とPRフロリアン・フレジアだけである。銀河系世代から今の世代にチームのカルチャーを継承する世代が不在だった。

「選手はクラブの歴史を知ってはいたが、テレビで見ただけだとファンのまま。今回のように、それぞれの時代を築いた先輩に会い、自分たちもこの歴史に属し、続きを作るのは自分たちなのだと認識することに大きな意義がある」と言うのは銀河系時代のアシスタントコーチであり、今季から共同ヘッドコーチ(以下、HC)としてトゥーロンに帰ってきたピエール・ミニョニだ。
「しっかり消化しなければならないが」とも付け加えた。

 最近トゥーロンは調子を上げてきている。
 開幕から不安定だったパフォーマンスも安定してきて今年の1月から11試合で10勝、トップ14ではプレーオフ圏内の4位につけ、チャレンジカップでは準決勝に進出を決めた。
 今季からフランク・アゼマとミニョニの2頭体制になり、ようやく2人の名将の取り組みが実をつけ始めてきた。

「ようやくコーチの意図が選手に理解されてきた。新しく加入した選手も多かったが、選手同士でお互いを理解し、信頼が生まれた」とミニョニ共同HCもチームの成長を認める。

「このチームは伸び代が大きい。タイトルを獲得することもできる。ただし、それは選手がどれだけ信じられるか、どれだけ必要な努力ができるかにかかっている。信じる力が強ければ、勝てる可能性も大きくなる」とチームのポテンシャルを信じながらも、「まだそこは脆い」とつぶやいた。

 この原稿を準備していた時に新しいニュースが飛び込んできた(4月20日)。アゼマHCが家庭の事情で今季で退団することが発表された。来季から家族の住む、そして自身の古巣であるペルピニャンのHCに就任することになった。青天の霹靂だ。

 この動きを嗅ぎつけたマスコミが発表する前に、まず自ら選手に伝えた。その日の午後には緊急記者会見を開き全てをクリアにした。
 2日後のカストル戦(4月22日)、トゥーロンは敗れた(18-31)。チームでプレーできず、個々にミスと反則を繰り返し、試合の流れを変えることができなかった。

 やはり動揺は大きかったのだろうか。昨季、降格の危機に面していたチームを立て直し、救ってくれたアゼマ共同HCに感謝している選手は多い。だからこそ、「このことはさらにチームに力を与えてくれる」とミニョニ共同HCは言う。
「クラブのために、サポーターのために、そしてフランク(アゼマ)のためにタイトルを獲得しに行くための力になる」と。

 昨年、リヨンを退団してトゥーロンに移籍することを発表したミニョニHCに、リヨンの選手がチャレンジカップのトロフィーを贈った。その時に敗れたのがトゥーロンだ。今回、トゥーロンもチャレンジカップをアゼマHCに贈ることができるだろうか。
 彼らの信じる力が試される。


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