王国きっての地上戦マスター。ボーシェーは「必要な局面で必要な仕事」をする。
愛称はロッキー。薄茶色の短髪と黒みがかった顎髭が特徴的な、ラクラン・ボーシェーが大仕事をやってのけた。
3月25日に現れた場所は、雨に降られた敵地の愛知・豊田スタジアムである。所属する埼玉パナソニックワイルドナイツの7番として、日本のリーグワン1部の第13節に先発する。
キックオフ早々から牙をむく。敵陣22メートルエリア中央で、対するトヨタヴェルブリッツの走者へタックル。腰元へぶつかり、その流れで足首を刈る。
発生した接点には、同僚の福井翔大が絡む。この日最初のペナルティキックを引き出す。まもなくワルドナイツは、3-0と先行する。
13-0で迎えた同21分頃には、グラウンド中盤で好ジャッカルが決まる。
この時、ワイルドナイツは右から中央へ展開されていた。
ヴェルブリッツの攻めをせき止めるべく、まずは左PRの稲垣啓太が鋭い出足で飛び出す。ロータックルだ。両腕で相手の両足を固め、味方のいる側へ倒す。
その走者の身体を自らの懐へ引き寄せたのが、近くにいたボーシェーだった。
滑らかに手元のボールへ絡む。
腰を落とし、膝を柔らかく曲げ、向こうからの圧を吸収する。
球を掌に吸い付けたまま、ヴェルブリッツ側のノット・リリース・ザ・ボール(倒れた走者が球を手離さない反則)を誘った。
稲垣の言葉には、ボーシェーの働きぶりへの信頼感がにじんだ。
「彼(ボーシェー)がジャッカルに入るシチュエーションを作ることが、僕らの役割です。下(半身)に(タックルに)入って、倒す」
地上戦の名手がさらに光ったのは、13-7と迫られていた後半4分頃だ。
LOのルード・デヤハーが一時退場処分を食らっていたさなか、自陣ゴール前左で危機を防いだのだ。
迫るヴェルブリッツのランナーに、味方LOのマーク・アボットとともにタックル。転倒させるやその場からわずかに離れ、すぐさまジャッカルを繰り出す。
ちょうど隣にいた右PRのヴァル アサエリ愛も一緒にへばりつき、ヴェルブリッツのノット・リリース・ザ・ボールを誘った。淡々と危機を脱した。
「横にいた仲間がいいタックルに入ってくれて、私は運よくボールを獲るポジションに到達できた。味方のサポートがあってこそのジャッカルでした」
背番号7をつけた本人がただ謙遜するかたわら、稲垣は「凄かったですね」と脱帽。自慢の防御のメカニズムを語りながら、ボーシェー、福井の両FLを讃える。
「(本来のワイルドナイツは)ブレイクダウン(接点)に人数をあまりかけない。人数をかけるのであれば、100パーセント、ボールをもぎ取ってこなければいけない。その意味では、福井、ロッキーが(ボールを)もぎ取ってきてくれたので、助かりました」
チームは一時退場者を2度も出しながら、19-10で開幕13連勝を決めた。4強以上によるプレーオフ行きを確定させた。
4月8日以降に組まれたレギュラーシーズン残り3戦で、上位進出と2連覇への地盤固めを目論む。
「(ヴェルブリッツ戦は)14人で戦う時間帯が長く、非常に苦しい試合でした。それでも一丸となり、勝利を得られた。チームの強みに、全員が各自の役割を理解していることが挙げられます。それがあるから、誰もが必要な局面で必要な仕事ができる。私の場合は、ボールを奪うことです」
こう述べるボーシェーは、身長191センチ、体重104キロの28歳。2016年からの計6シーズン、母国ニュージーランドのチーフスで活躍した。
オールブラックスこと同国代表入りも期待されたが、現実は苦かった。ボーシェーは2021年に来日し、翌年1月以降のリーグワン元年からワイルドナイツで戦う。
周りのオールブラックス入りへの待望論について、自身は「それについては、コメントしづらいけれど…」と困ったように笑う。
ニュージーランドでは、同国協会と契約した現地在住者から代表が選ばれる。外国にいる限り、その選手はオールブラックスに加われない。
それでもボーシェーは、いまいるクラブで力を発揮したいと語る。
「日本にいられること、ワイルドナイツでプレーすることは幸運に感じています。今後については流れに沿って…と考えています」
堅守で得た球を有効活用する自軍について、「ニュージーランドで経験したスタイルとも親和性がある。ポジティブな、いいラグビーをしている」とも話す。異国の地で違和感を覚えず、充実の日々を過ごす。