国内 2023.04.07

【連載】プロクラブのすすめ⑦ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] 「企業×ファン×ブルーレヴズ」でみんながハッピーに。

[ 明石尚之 ]
【連載】プロクラブのすすめ⑦ 山谷拓志社長[静岡ブルーレヴズ] 「企業×ファン×ブルーレヴズ」でみんながハッピーに。

 日本ラグビー界初のプロクラブとしてスタートを切った、静岡ブルーレヴズの運営面、経営面の仕掛けを山谷拓志社長に解説してもらう連載企画。

 7回目となる今回は、ホストゲームの仕掛け、作り方、スポンサーとの関わり方について、語ってもらった。(取材日4月3日)

◆過去の連載記事はこちら

――まずは、3月26日にIAIスタジアム日本平でおこなわれた相模原DB戦(30-20)を振り返ってください。

 昨シーズンはワイルドナイツ相手に悔しい負け方をしてしまった(25-26、試合終了際の逆転負け)ので、IAIで初めて勝利試合をお見せできたことは良かったです。

 ただ集客は雨の影響を受けて、2500人となりました。たらればですが、晴れていれば4000人は入ったのではないか、という読みだったんです。
 もともと発券したチケットの半分もお客さんが来なかったのは初めての経験でした。招待した方だけでなく、チケットを買っていただいた方の着券率もよくなかった。お金を払っても雨だとちょっと…という方がいるということです。雨でも行きたいと思っていただけるような、コアファンの方々を増やしていかなければいけないと痛感しました。

――静岡の(静岡市を中心とする)中部地域は特にライト層が多い。どのようにしてコアファンになってもらいましょう。

 まずはデータを取るということですね。そうしないと実際にアプローチができません。われわれは地域の方々の抽選招待やスポンサーでの招待でも、データを取ることは徹底してきました。必ずメールアドレスはいただいています。
 その後に、一度来ていただいた方にはどういうメールをするのか、どういうクーポンを配るのかなど、アプローチをしっかり考えないといけません。次は友達や家族を連れて見に来たら割引きがありますとか、この試合は相手チームに注目の日本代表選手がいますとか。もちろん試合前のイベントなど、ラグビー以外の魅力も訴える必要があります。

 この作業はかなり地道です。細かくデータを分析して、それに対してアプローチをする。それから実際に送ったものに対する反応がどうだったか、それによってどのくらい購買につながったのかを見て、また新たにアプローチを考えていく、その繰り返しです。バスケの時もそうでしたが、特効薬はありません。

――相模原DB戦は2504人、1か月前の第11節・S東京ベイ戦はエコパスタジアムで3531人と、集客は苦戦が続いています。

 以前も話しましたが5000人を切ってしまうと、経営的には厳しいです。赤字を最小限にしたり、なんとかトントンに持っていくことで乗り越えてはいるのですが…。コストを抑えることはこれまでもかなり頑張ってきましたが、もう少し工夫できないかと考えています。
 やはりバスケの時と比べると、スタジアムとアリーナでは広さが全然違うので、警備員の数がどうしても増える。人が来るか分からない中で、それでも発注しないといけません。一つひとつのブースのテントも大きいですし、そうすると人手がかかり、コストがかかります。

 ただ今シーズンはコストを減らすこと以上に、集客数を伸ばすことを考えてきました。シーズン前から今年は「W杯以降への布石」と話しています。
 招待も戦略的に実施してデータを蓄積する。多少コストがかかっても、より多くの方に興味を持ってもらう。そしてそれを来季はしっかりマネタイズする。W杯でラグビーが盛り上がって、ラグビーを見に行こうと思った時に、チケットを買ってレヴズを応援しようとなるような流れを作っていきます。

 ただし、これは日本代表が頑張ってくれることを前提にしているので、経営者としては不発だった場合のことも考えなければいけません。
 そうなった時に、今の状況のままでは1万人観客を入れたとしても利幅は想像よりも薄い。利益が出ないとチームを強化できないので、もう少しイノベーションできないか、模索していきます。先日もジュビロ磐田の試合を見て、どこにお金をかけているのか、いないのか、ここは意外と簡素にやっていたり、等々を学びました。

――ライト層へのアプローチの話に戻ると、今季、良い反応が見られたものはどの施策でしょう。

 バスケの時もそうですが、ギブアウェイは評判が良いです。開幕戦のニットキャップや最終戦のレヴシャツですね。
 ただ、良い企画だからどんどんやろうとはギブアウェイの場合なりません。それだけお金がかかるものですから。

 われわれはそのコストをスポンサーにご協賛いただくことで補っています。これは多くの露出機会を得られる、スポンサーにとっても大きなメリットなんです(配布グッズに企業ロゴ等が入る)。もちろん、ゲットできたファンも嬉しい。三方、良しです。企業×ファン×ブルーレヴズ。そうした企画をどれだけ立てられるかがすごく重要になってきます。
 今週末には花火を打ち上げますが、これもスポンサーからご協賛をいただいています。(エコパスタジアムのある)袋井市では花火が有名なんです。

 リーグワンでは、そのギブアウェイがまだお金が出る一方になっている感じがします。いろんな工夫がないといけませんし、いろんな工夫があった方がさまざまな方に喜んでいただけるのです。

開幕戦で先着10000人に配られたニットキャップを被るレヴズファン。ASTI、平野建設、ユービーサポートの3社がスポンサーに(撮影:高塩隆)

――4月8日(明日)は二度目のエコパスタジアムでの開催です。

 この試合のイベントや企画の担当は五郎丸くん(歩/CRO)です。ゼクシィさんとのコラボに関しても、五郎丸くんが自分で先方に連絡して調整していました。
 担当は部署関係なくペアを組んで、試合ごとに持ち回りでやっています。今回は五郎丸くんと、広報の大山(祐輝)くんです。彼らが何をコアの企画にするかを考えました。

 この試合では、メインスポンサーでもあるヤマハ発動機のゴルフカートがスタジアム周辺(敷地内)でお客さんの送迎もおこないます(対象は高齢者や妊婦等)。今回は有人ですが、無人の自動運転で駅から公道を走ることも技術的にはできるそうなので、ゆくゆくはそうしたこともできればと思っています。
 これも先ほど話したような「企業×ファン×ブルーレヴズ」ですよね。スタッフにはみんながハッピーになる企画をどんどん考えていこうと話しています。

――こうしたイベントや企画の担当は、専任ではないのですね。

 だいたい2週に一度はホームゲームが回ってくるので、ひとりではまかなえません。専任の人を置くとしても、例えば3人の持ち回りでやることになると思います。
 試合前までの仕込みが間に合わなくなるんです。まだまだわれわれも遅いのですが、だいたい試合の1か月前にはイベントの情報を出さないといけません。一般的にスケジュールが固まるのは、1か月前というデータもあります。

 その場合、企画を固めるのはさらに1か月前でも間に合わないくらいです。画像やチラシなど、いろいろなツールを用意しないといけない。先日、Jリーグに関する記事を見ましたが、夏休みの試合の企画はゴールデンウィークには固まっていて、6、7月には情報を出しているそうです。

 われわれは財布とスケジュールを抑える商売です。いかに早くスケジュールを抑え、ブルーレヴズを見ることに対してどれだけお金を出そうと思ってもらえるか。そのためには情報を早く出すことがめちゃくちゃ大事なんです。

――レギュラーシーズン残り3試合で現在7位。入替戦回避へ負けられない戦いが始まります。ファンの方々にメッセージを。

 チームはいま本当にケガ人の多い中、頑張ってくれています。4月23日の最終戦では1万2000人を目指します。ジュビロ磐田の開幕戦越え(10737人/ヤマハスタジアム)が目標です。
 開幕戦で負けているトヨタさんに勝って終わることができればベスト。 重要な試合が続くので、ぜひみなさんに応援にきていただきたいです。

 ただ入替戦の可能性も残っていますので、想像したくはないのですが、もしそうなった時にどうするかを考えるのも経営です。いろんなシナリオを想定しています。
 さらに来季に向けても、すでにいろんなことで動いています。今シーズンが終われば長いオフに入ってしまいますが、秋にはW杯という目玉となるコンテンツがある。ブルーレヴズも来季は勝負をかけていきます。W杯の盛り上がりを最大限マネタイズできる準備をしていきたい。
 ファンの方々に楽しんでいただけるような施策と、強いチームをお見せできるように、必ずステップを踏めるシーズンにしたいと思っています。

PROFILE
やまや・たかし
1970年6月24日生まれ。東京都出身。日本選手権(ラグビー)で慶大がトヨタ自動車を破る試合を見て慶應高に進学も、アメフトを始める。慶大経済学部卒業後、リクルート入社(シーガルズ入部)。’07年にリンクスポーツエンターテイメント(宇都宮ブレックス運営会社)の代表取締役に就任。’13年にJBL専務理事を務め、’14年には経営難だった茨城ロボッツ・スポーツエンターテイメント(茨城ロボッツ運営会社)の代表取締役社長に就任。再建を託され、’21年にB1リーグ昇格を達成。同年7月、静岡ブルーレヴズ株式会社代表取締役社長に就任

静岡ブルーレヴズ立ち上げの際の記事はこちら(ラグビーマガジン2021年9月号)
リーグワン2022を振り返った記事はこちら(ラグビーマガジン2022年7月号)

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