各国代表 2023.03.24

チボー・フラマン[フランス代表/SO]、進化の旅。

[ 福本美由紀 ]
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チボー・フラマン[フランス代表/SO]、進化の旅。
203センチ、110キロの25歳。フランス代表キャップ16



 シックスネーションズ2023、フランスは最終節のウエールズ戦に勝利し(41-28)、2位で終えた。
 今大会のフランスチームの最優秀選手と現地メディアが評している選手がいる。LOチボー・フラマン(25歳)だ。

 イタリアのSHスティーブン・ヴァーニーのキックをチャージし、そのままゴールまで走り切り、フランス代表の今大会最初のトライを決めた。

 アイルランド戦では、ひとつも外すことなく26のタックルを決めた。この試合、チーム最多である。

 イングランド戦では、2つのトライを挙げた。1つ目は相手ディフェンスをパワフルに引きずりながら。
 2つ目は、SHアントワンヌ・デュポンのキックパスを、SOロマン・ンタマックが機転を効かせてタップし、フラマンが走り込んで受け取った。そのままインゴールまで駆け抜けた。

「10番や15番をしていたのが生きている」とデュポンが言うように、ゲームの流れを読み、いるべき所にいる。ハンドリングも器用にこなす。
 運動量も多く、いたる所でフラマンの白いヘッドキャップが目に入ってくる。

 フラマンはパリ生まれ。ベルギーのブリュッセルで育った。ラグビーを始めたのもブリュッセルだ。BKの選手だった
 高校を卒業する時に、「フランスの養成機関に所属したことがないから、フランスのクラブは採用してくれないだろう」と考えた。イングランドのラフバラ大学でラグビーを続け、夢を追い続けることにした。

 ラフバラ大学では、203センチの身長を活かしてLOに転向できるように筋肉をつけろとコーチに言われた。
「お酒はほとんど飲まず、夜は早く寝て、朝6時に起きてトレーニングをしてから授業に出席していた」とフラマンとルームシェアしていた友人が、当時の様子を語る。
 2年目には1軍と2軍を指す『パフォーマンス』グループに入った。

フラマンが在籍していたインターナショナルビジネス・コースは海外研修が必修となっていた。
3年目にラグビーを続けられる国、アルゼンチンを選んだ。朝6時にブエノスアイレスの空港に着いた。

 ブエノスアイレス郊外にある、現地1部リーグのクラブチーム、ニューマンのマネージャーが迎えに来てくれていた。
 そこからクラブがあるグラウンドへ直行し、ラグビースクールの試合、シニアの試合を観戦。アサド(アルゼンチンのバーベキュー)も体験した。また「うちにおいでよ」と住居の提供を申し出てくれる人もいた。
 数日後にフランス大使館経済部での研修を見つけた。

 アルゼンチンでプレーしながら気づいたことがある。
 同国代表チームと同じように、現地のクラブもロッカールームで熱く語り、試合に出ないサポート選手たちが壁や扉を叩き、飛び跳ねながら大声で歌う。試合に出場するチームメイトを、さうやって盛り上げていた。

「それまで、いいパフォーマンスがしたくて、自分にプレッシャーをかけていた。ヘッドホンを着け、外の音を遮断し、自分だけの世界に閉じこもっていた。フランスやイングランドのテレビで見る試合のロッカールームがそうだったから。でもアルゼンチンの人の熱さに触れ、自分1人で神経質になっていたことが不自然に思えてアプローチを変えた。すると、『楽しそうにプレーしているね』と言ってもらえるようになり、自分に自信が持てるようになった」

 1年の研修を終え、ニューマンはナショナル・デ・クルベス(国内クラブ王者を決定する大会)の決勝進出を果たした。
 フラマンはイングランドに帰った。「アルゼンチンでフランス代表デビューする」という夢を抱きながら。
 2018年夏のことだ。

 大学での最終学年は1軍でプレーするようになった。ワスプスの目に留まった。

 ワスプスのアカデミーに加入して1年目から、イングランド代表LOジョー・ローンチブリー(現在トヨタヴェルブリッツ)の控えとしてプロチームでプレーするようになった。

「プロになれたのはイングランドの養成システムのお陰。とてもプラグマティックで精度が高く、感情に左右されないイングランドのラグビーから多くを学んだ」

 2020年にトゥールーズに加入、翌年11月のアルゼンチン戦でフランス代表デビューを果たし、代表初トライを決めた。
「場所はアルゼンチンではなかったけど、アルゼンチン戦でデビューする夢が実現した」

 そして今大会のイングランド戦が終わった瞬間、あまり感情を見せないフラマンが両手の拳を突き上げた。涙が込み上げてきた。
「18歳で初めてトゥイッケナムを訪れた時、ここでブルーのジャージーを着てプレーすることを夢見た。その夢が叶って胸が熱くなった」

「ずっと心の底で信じていた。そこに到達するための努力をすると決めていたから」

 ワスプス時代のフラマンに、すでに「君は将来フランス代表になる」と言った人物がいる。当時ワスプスに在籍していた元ニュージーランド代表のリマ・ソポアンガ(現在リヨン)だ。
「このチームには、楽しむためにここにいるやつ、お金のためにここにいるやつ、そして上達するためにとことん努力するやつがいる、君みたいにね」

 フランス代表でのフラマンの試合を見て、ソポアンガはニヤリと笑っているだろうか。

 フラマンの努力は続く。次の夢を実現するために。


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