海外 2023.02.02

お互いに学び。韓国と日本の架け橋に。田代宙士、金崎廉大朗[ルリーロ福岡]が5月までポスコ建設に在籍

[ 編集部 ]
お互いに学び。韓国と日本の架け橋に。田代宙士、金崎廉大朗[ルリーロ福岡]が5月までポスコ建設に在籍
朴監督を挟んで、左が金崎で右が田代。



 学ぶことばかりだ。
 ルリーロ福岡(トップキュウシュウ)のSO田代宙士(35歳)とCTB金崎廉大朗(26歳)は、ふたり揃ってそう言った。
 1月6日から韓国にいる。

 同国南東部の港湾都市、浦項(ぽはん)に暮らす。
 5月いっぱいまでポスコ建設のラグビー部に籍を置いて活動する。
 現在はプレシーズン。3月下旬に始まる国内春季リーグへの準備を重ねているところだ。

 きっかけは、昨年の春だった。田代は宗像サニックスブルースでプレーしていた。
 チームが休部することになった際、同僚の申東源(しん・どんうぉん/愛称ダニエル)に相談した。

「ダニエルに韓国でプレーできないかな、と打診したんです。その時はうまくいかなかった」
 秋になって申から電話が入った。
「コーチ兼任なら、ということでした」

ポスコ建設の主将を務めるのは李珍錫(イ・ジンソク)。NECやヤマハでプレーした

 ポスコ建設とつながる。監督の朴淳彩(パク・スンチェ)氏は、NTTドコモやサントリーでプレーしていた人だ。
 申の結婚式で顔見知りになっていた仲だ。ルリーロの許可を得て、オフに海を渡ることになった。

 金崎にもチャンスが巡ってきた。
 朴監督がCTBを探しているのを聞いた田代が声を掛けたのだ。
 自身のプレー映像集を作って送り、採用が決まる。
 ふたりとも就労ビザを取得し、ポスコ建設のチームからサラリーを得て活動する。

 練習に参加してふたりが最初に驚いたのは、規律の甘さだ。
 フィットネスを高めるシャトルランなどでショートカットをする選手たちが大勢いた。

 田代は選手たちと同じ練習に加わることもあるが、最大の目的はコーチングスキルを高めることだ。
 選手たちの甘い取り組みを注意した。

 金崎は率先して走り、しっかりラインを越えた。
 態度で周囲に影響を与えた。
「タシさんに言葉で注意してもらい、自分は行動で示すべきだと考えました」
 成果は、すぐに反映される。練習の空気が変わりつつある。

 ポスコへの期限付き移籍が決まったとき、田代は「今後のラグビー人生を考えた時、何をしたいのかを考えました。選手でやれる期間はもう少なくなってきたこのタイミングです。異国の地で、誰にも頼る事のできない環境でコーチングをする。たくさんの経験を積めると思いました」とチームのホームページでコメントを出した。

 その言葉通り、いい経験を積めている。
 朴監督とコミュニケーションを取りながら練習メニューや計画を考える。
 コーチ室にアドバイスを求める選手たちが訪れることもある。
「瞬発力やパワー、スピードはあっても、スキル面が足りない選手が多くいます。そこを引き上げる。ラグビー理解力も高めてあげたい」

 金崎も、韓国の選手たちの身体的なポテンシャルの高さを認める。
「(ルリーロでの)昨シーズンは多くの試合に出ることができました。その中で感じたのは、フィジカル面での強さ、コンタクト時のパワーが足りないということ。韓国には強い選手がいます。その中で、強さを付け加えたい」

「プレーヤーとして、チームを優勝させることにも注力したい」と話す。
 仲間にアドバイスをすることも多い。「アウトプットすることで、自分も伸びる」と体感を語る。
 成長したものをルリーロ福岡に還元するつもりだ。

 これまで在籍してきたチームで、海外出身選手とコミュニケーションをとってきて感じていたことがある。
「大事なのは、その国や、カルチャーを知ろうとすることだと思うんです」
 金崎は積極的に韓国語を使う。
「プレーの中では、右、左、はやく、などを韓国語で言っています。オルンチョ、ウェンチョ、バッリと言います」

 毎日韓国語を勉強。仲間と話し、街に出て使ってみる。
 うまく通じなくてガックリくることもあるけれど、田代とふたりで少しずつ会話力を伸ばす。
 フィールドの中にも外にも刺激が多い。それが、冒頭の「学ぶことばかり」の言葉に込められている。

「僕ら次第で、日本の選手に、また来てほしいとなるかもしれません。それくらいの存在感を示したい。日本でプレーしたいと、選手たちに相談されることも多くある。両国の架け橋になれたらいいですね」(田代)

 金崎も言う。
「ラグビーも文化も学びたいと思っています。キムチなど辛いものはあまり得意ではありませんが、それも拒否するのではなく、少しずつでも慣れていきたい」
 すべての時間が自身の将来を豊かにしてくれるだろう。

 ふたりとも、会社の寮に暮らしている。午前にウエートトレ。午後にラグビーの練習に励む。
 浦項の街は海岸沿いにおしゃれなカフェなどもあり過ごしやすい。5月まで、充実した日々を送ることができそうだ。

 コーチング技術を高める田代にとって、うきは市やその周辺をホームに活動するルリーロは、まさにオラがチーム。
 自分たちが高く羽ばたくことは、地域の活性化につながると強く信じている。

 金崎はルリーロがさらに成長のスピードを速めるために、「グラウンド外の時間をそれぞれが高めること」と話す。
「サインプレーを全員が覚えてグラウンドに出ないと、練習が止まってしまう。そこは個々が最低限やってくるべきこと。まだ、一人ひとりの意識に差がある。そういうところを高めて、次のシーズンを迎えないといけないと思います」

 3地域社会人リーグ順位決定戦で大阪府警察、東京ガスに敗れたルリーロの選手たちは、フィットネスとフィジカルの差を感じ、そこに焦点をあててオフシーズンを過ごしているようだ。
 自分たちは韓国の地で心身ともに高める。

「将来、ルリーロとポスコが交流をするとか、選手たちが行き来する環境を作るとか、そういうこともできるといいですね」
 ふたりの声は、そこでも揃った。


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