コラム 2022.12.23

【ラグリパWest】報徳卒の仰星校長。小寺建仁

[ 鎮 勝也 ]
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【ラグリパWest】報徳卒の仰星校長。小寺建仁
東海大仰星中高の校長をつとめる小寺建仁さん。出身高校は報徳学園である。応援に頭を悩ます全国大会が近づいて来る。後ろの言葉は東海大の創立者である松前重義さんが作った「建学の精神」である



 昔は「アジアの虎」だったらしい。

 小寺建仁(こてら・けんじ)にその噂を確認すると笑いを含んだ声になった。
「それは諏訪高校の校長になった中村先生が言ったことがぱっと広まったのです」
 軽口ではない。柔道家として、現役時代は五輪出場が視野に入っていた。今は黒帯の5段。大内刈りなど足技を得意にする。

 中村正幸とは同じ東海大付属の仰星で同僚だった。その小寺は今や「村野の猫」と化す。虎から猫へ。下がる目じり。優しさがにじむ。乳幼児や小学生を導く経験を経て、仰星の中高における校長になる。村野は学校所在地。大阪の枚方(ひらかた)にある。

 小寺はこどもの日で還暦を3つ越した。その人生は柔道が彩る。最初の軸は報徳学園といっていい。中高6年を過ごした。この出身校と今の奉職先はどちらも12月27日から始まる全国高校ラグビーの優勝候補である。

「応援には行きます。ラグビーは大好き。柔道とは違うけど、体と体がぶつかるあの迫力。見ていて体がぐーっと前のめりになります」

 高校時代、ラグビー部の監督だった前田豊彦から体育の授業を受けた。
「同じクラスや学年にラグビー部の子はたくさんいました。みんな元気がよかった」
 現監督の西條裕朗は3学年下になる。

 小寺が柔道を始めたのは小5だった。漫画からテレビドラマになった『柔道一直線』に魅せられる。尼崎にある天崎講武会に入った。翌年、兵庫県の少年柔道大会の重量級で優勝してしまう。わずか2年。天賦の才があった。

 天崎のOBで報徳の柔道部監督だった寺島秀雄に誘われて、この中学に入った。
「男子校、バンカラが楽しかったですね」
 高校の柔道は県内屈指の強さだった。

 大学は寺島が懇意にしていた佐藤宣践(のぶゆき)の指導を仰ぐ。東海に進む。
「私は高2からインターハイや国体に行かせてもらいました。でも、入学したらそれどころやなかった。すごい世界でした」
 東海は国士舘や天理などと並び、柔道の名門校である。多士済々だった。

 2学年上には山下泰裕がいた。
「何回か組んでもらいました。全然強かった」
 山下は1984年、ロス五輪の無差別級で金メダルを獲る。現在は東海大の副学長や日本オリンピック委員会の会長をつとめる。

 小寺はその中でもまれ、最終学年では全日本学生体重別選手権で優勝する。65キロ級。山下と同じロス五輪の強化選手にも選ばれ、国際大会にも参加した。卒業して1年は大学に残り、コーチなどをして過ごした。

 1983年、仰星創立と同時に教員になった。柔道部を作り、監督になる。それも夢だった。翌年、土井崇司が赴任。ラグビー部を創部する。監督、総監督として冬の全国大会優勝は3回。二代目の湯浅大智と合わせると6回。歴代4位の記録となる。土井は現在、同じ東海大付属の相模の中高校長である。

 小寺は仰星一筋に生き、2011年には副校長になった。2016年に異動。静岡翔洋の幼稚園と小学校の園長兼校長になる。0歳から12歳までの子供たちと3年間を過ごした。
「嘘をつかない、ごまかさない、ということの大切さを学びました。子供たちは敏感。そして真っ白ですから」
 小寺の教員としての幅は広がる。「猫」になったゆえんである。

 2019年、仰星に戻る。9月、校長になった。
「この学校も時代の流れに対応して、進化していかなくてはなりません。でも東海のよさも守っていかねばなりません」
 校長になって3年半。小寺は思いを語る。

 東海のよさとは?
「自由な発想です。先駆けたれ。柔道では私が現役の頃、どこよりも早くウエイトトレを採り入れました。走るという概念のなかった稽古でもばんばん走っていました」
 筋肉、足腰や心肺機能の強化によいことは前例を見ない。その勇気がある。

 来年4月、20年ぶりに制服を変える。創立40周年と重なる。
「今の制服も人気がありますが、男子と女子ではなく、パンツとスカートで分けます。ポロシャツなどを含め選択肢もふやします」
 ジェンダーレスを意識する。ネクタイとリボンはTOKAIブルー。目に鮮やかだ。

 育てたい人材をSDGs(持続可能な開発目標)に合わせて、「自分で学ぶ力」など10に分ける。学校案内にはその10項目がどの行事や時間帯にあてはまるのかを示している。
「自画自賛ですが、よくできていると思います」
 その底には学校創立者である松前重義による4つの建学の精神、「若き日に汝の思想を培え」なども横たわっている。

 仰星ラグビーはその小寺の希望に添う。
「ウチの学校が目指すチームになってくれています。リーダーを作り、自分たちで考えて行動する。ラグビーだけではダメ。勉強もしっかりする。理想的だと思います」

 その小寺が手塩にかけてきた学校と母校の対戦がじきあるかもしれない。近々では報徳が29−24で仰星を退けている。10月15日、花園(旧・近鉄)×レベルズ(豪州)戦の前座として花園ラグビー場で戦った。

 全国大会ではどちらを応援するのか。ふぉっふぉっふぉ、と小寺は笑う。
「それは仰星です。立場上。両方ともに応援していますけどね」
 そして、続けた。
「2校で決勝戦をやってほしい。理想です」

 そのためには両校とも4連続で勝ち、なおかつ2回ある組み合わせ抽選で当たらないようにしなければならない。
「もっているかですね」
 運命は、神のみぞ知る、である。


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