国内 2022.11.14

豪フォースに2連勝の浦安D-Rocks。アッカーマンHCのビジョンは。

[ 向 風見也 ]
豪フォースに2連勝の浦安D-Rocks。アッカーマンHCのビジョンは。
フォースとの第2戦後半に出場し会場を沸かせた安田卓平。トライ直前のシーン(撮影:松本かおり)


 敗れたウェスタン・フォース陣営から、対する浦安D-Rocksについてこんな証言が漏れた。

「練習量の多いチームだと感じました」

 NTTグループの2チームにより編まれ、国内リーグワン2部で再出発するD-Rocksは、11月12日、本拠地の千葉・浦安Dパークで国際親善試合を実施した。対するフォースは、オーストラリアから国際リーグのスーパーラグビーに加盟している。

 ヨハン・アッカーマン新ヘッドコーチ率いるD-Rocksは、多くのセットプレーで優勢に立ち、組織的な動きでスペースへ球を運んだ。

 SOのオテレ・ブラックが相手防御を引き付けていた前半を22-7とリードし、ハーフタイムを前後してメンバーを入れ替えながら、最後は、34-28で制した。6日に同じ場所でおこなった初戦を33-28としたのに続き、2連勝した。

 フォース側の談話は、D-rocksの連動性と運動量への皮膚感覚の表れだろう。

 フォースが若手主体であったこと、D-Rocksも日本代表遠征に3選手を派遣していたことを鑑み、勝ったアッカーマンは冷静に総括した。

「今回の試合はハートとハートのぶつかり合いで、熱意が見られました。選手個々のパフォーマンスについて深く知る機会があったのが大きな収穫です。自分たちがかなりいいセットピースを持っていることは今後のベースになっていくと思います。今回は、両チームともクオリティの高い選手を試合に出していません。そのため結果自体はあまり深読みせず、今後は自分たちの突き止めた課題について練習していきたいです」
 
 母国・南アフリカのライオンズの指揮官としてスーパーラグビー準優勝を経験したアッカーマンは、昨季までNTTドコモレッドハリケーンズ大阪のヘッドコーチだった。

 就任初年度の2021年、それまで下位に低迷していたトップリーグの最終年度で初の8強入りを果たしている。ニュージーランド代表経験者のSH、TJ・ペレナラの躍動を最大化させた格好。プレシーズンキャンプでの猛練習と部内の結束を強める「ストーリータイム(互いの背景を語り合う試み)」が効力を発揮した。

 昨季は、もともと浦安で動いていたNTTコミュニケーションズシャイニングアークスとともにリーグワン1部に臨んだ。シーズン中にクラブの再編を言い渡されながらも、その件が公式発表された直後の試合でリーグワン初勝利を挙げた。

 ふたつのクラブの精鋭をまとめた浦安D-Rocksでも、シャイニングアークスのヘッドコーチで現・強化アドバイザーのロブ・ペニー氏のかたわら、陣頭指揮を執る。

 新天地でも古巣時代と同じく、1日2部練習のタフなセッションを重ねる。走り込みも多く課しているようだ。

「リーグワンへの準備です。私たちは速い展開で、観ている方々に楽しんでもらうラグビーがしたい。自分たちのスタイルを貫くには、フィットネス(持久力)が必要不可欠です。また近年のラグビーではフィジカリティの要素が問われるので、その力をつけるという狙いもあります」

 レッドハリケーンズのアッカーマン体制で主将を務め、D-Rocksの副将に任命されたLOのローレンス・エラスマスは、ボスの隣で笑う。

「ラグビーは、そういうスポーツです。きつい状況に耐えなければいけない。きつくなった時に自分たちの細かな点(プレーの精度など)に集中できるよう、身体を慣らさなければいけない」

 ハードワークがアッカーマン体制の特徴。本人はこうも言う。

「プレシーズン期に選手たちへプレッシャーをかけるのには、プレッシャー下での選手の反応を見る、という意図もあります」

 ただ、求めるのは献身だけではない。シャイニングアークスからD-Rocksに移行したHOの藤村琉士いわく、「リカバリーも重要視している」。ひたすら駆け回り、ぶつかり合った後は、シャイニングアークス時代からある水風呂、ケアルームを活用して回復を促す。

 頑張る素地も整える。実施した国内合宿では猛練習と並行し、異なる文化を持ち寄った選手が語らう時間を設定。クラブにあるべき倫理観を定め、それぞれに共有してもらうよう努める。アッカーマンは続ける。

「まずチームの団結力を作るのが先決でした。自分たちが新しいチームであることを自覚し、アイデンティティ、文化を築くことを最優先にしました。『個々が最高の成果を果たすための責任を持とう』というテーマで動いています。責任感を根付かせるために合宿できつい練習をしたり、互いが知り合っていったりするようにしました。選手たちには常に伝えています。『新しい歴史を作っているこの機会を、無駄にしないように日々を過ごしていこう』と」

 対ウェスタン・フォース2連戦の2試合目で途中出場し、スクラムのリードとハードタックルで魅した藤村は、生来のストレートな言い回しで上司を語る。

「家族、という感じでチームをまとめてくれる。いい男、って感じです! ミーティングの前によく『朝、起きた時に感謝しろ』など、人生についての話をしています。人格者です」

 前身のシャイニングアークスは、入替戦で降格した昨季も元スコットランド代表SHのグレイグ・レイドロー、元オーストラリア代表FBのイズラエル・フォラウら各国の実力者を並べていた。新生D-Rocksも当時の主要戦力をほぼ据え置きにしているだけに、組織の統合と最適化が急務とされている。

 その役目を担うのが、レッドハリケーンズ(現在3部)を再建したアッカーマンなのだ。元警察官でもある「いい男」はいま、浦安の部下の献身を優しく、厳しく見守る。

PICK UP