国内 2022.11.11

「いつも通りとは違いましたが…」。法大は感染者発生もリーグ戦辞退は回避。

[ 向 風見也 ]
「いつも通りとは違いましたが…」。法大は感染者発生もリーグ戦辞退は回避。
新型コロナ感染に気をつけながら活動する法大。練習を見守る新宮孝行監督(撮影:向 風見也)


 法大ラグビー部の動き出しは早い。

 薄暗いうちから東京町田市内の多摩キャンパス入りし、人工芝グラウンドでのトレーニング中に太陽を迎える。晴れた朝は白い光がまぶしい。

 新宮孝行監督が「集合しようか」と、ポジションごとに散った部員に声をかけたのは、朝6時半からの全体練習を終えてからだ。時は11月11日。加盟する関東大学リーグ戦1部の第7週を2日後に控えていた。

 最近、クラブで起きた災いを踏まえ、指揮官はかように念を押した。

「もし今度の試合をしたいというのなら、きょうとあすの2日間、苦しいかもしれないけど寮でもマスクを…」

 約80名の現役部員は、さぞ不安にさいなまれただろう。

 ちょうどオフ明けにあたる10月31日。学校の近くにあるクラブの寮で、新型コロナウイルスの感染者が発生した。

 陽性だった部員と同部屋の選手は濃厚接触者とされ、以後5日は周りとの交流を断った。対象となった選手のひとりは、身体を動かせないなかでさまざまなラグビーの試合動画を観て過ごした。

 6日に予定されていた、控え選手向けのジュニア選手権大会の日大戦は辞退した。

 不幸中の幸いは、大学当局が活動停止を求めなかったことか。

 ジュニア選手権のゲームを前にクラブは動きを止め、感染者をホテルへ移動。健康な学生の一時帰省を認め、8日の練習再開までに全部員へ抗原検査を施した。

 栃木・足利ガスグラウンドでのリーグ戦の第7週に向け、トレーニングを再開させた。

 主力組が大学選手権行きを目指せるリーグ戦への参加継続は、最上級生きっての願いでもある。最大で全体の3分の1程度におよんだ隔離対象者の復帰を順次、迎え入れながら、準備の整った面子でベストメンバーを組む。

熱心に指導する星野将利コーチ(撮影:向 風見也)

 本番までの練習回数が減った事実は変えられないが、その状況がかえって集中力を高めたようだ。おもに防御を担当する星野将利コーチは、手応えを口にする。

「コロナが出てしまって、今季の終わりが見えた。そうしたら、(再開後は)今季で一番いい雰囲気です。選手内のやり合いも、練習への取り組みもいい」

 タックルの得意なFLで共同主将の吉永昂生は、こう言葉を選ぶ。

「自分も(ウイルスに)かかってしまうんじゃないか、もし自分の部屋の子がかかったら…という心配もあったんですが、ひとりひとりが濃厚接触者にならないよう対策をしてきた。いつも通りとは違いましたが、準備はうまくいったと感じます」

 吉永と共同主将を務めるHOの徐和真は、この秋2度目のベンチ入りに決意を新たにした。

「いままで出られなかった分、チームのいいところ、悪いところを俯瞰した目で見てきました。それを、伝えていきたいです。常にベンチから声を出し続けて、試合ではチームの雰囲気をガラッと帰られるようなプレーがしたいです」

 1924年創部で大学日本一は過去3度。昨季までリーグ戦の順位を6、4、6位と中位に甘んじてきたが、今季は開幕から大東大、日大と前年度の選手権出場組を続けて撃破。低迷脱却を予感させていた。

 FBで1年時から主力の石岡玲英が同級生を巻き込み、寮の清掃点検、練習での意識発揚と多くのシーンでリーダーシップを発揮。クラブ改革に意気込む。

 4年生の徐はこうだ。

「3年生のリーダー陣が引っ張ってくれています。それで逆に、4年生も引き締まっています」

BKリーダーの石岡玲英。写真は今年9月に撮影(撮影:向 風見也)

 フィールド上では、ゲームプランを定める。鋭い出足のタックルと首尾よく敵陣に入ってからのボール保持で、ペナルティゴールを交えて堅実にスコアする。接戦を勝ち切らんとする。

 意思統一の大切さがわかったのは、10月30日の第5週。この日は昇格したての立正大に、キック、防御での圧をかけられ18-64と大敗した。

 かねて立正大がキック主体とするのを事前に分析し、蹴り合いに持ち込まぬようラン、パスで防御を崩しにかかったが、それが裏目に出た。自陣でハンドリングエラーを重ね、ペースを握られた。

 石岡は、相手の徹底マークと強風を前にミスを重ねた。

「チームとして自分たちがボールを持っている時間を長くしようとして臨んだ。いい視点ではあったのですが、それまでずっとキックでエリアを取って…というゲームメイクをしてきていたので、(マイナーチェンジが)ミスを呼んでしまったのかな…と感じます。どこで勝負するかが微妙になってしまった。試合に入っていく準備に詰めの甘い、おろそかなところがあって、それが試合に出てしまったと感じます」

 反省を肥やしにする。立正大と同じく昇格組の東洋大から4勝目を得るべく、己に言い聞かせる。

「自分たちの学年で(4年時に)勝ちたいと、1年生の時から周りのリーダーと話しています。そのためにも今年は(選手権に)行きたいなと思っています。やれることをやるしかない。目の前の試合を1点差でもいいので、まず、勝つこと。その結果、選手権という結果がついてきてくれたら…というマインドではいます」

 かたや吉永は、今季限りで競技の第一線から離れる。「悔いなく、ひとつひとつの行動を大切にして、できることを全部やる」と述べる。

「そのうえで負けてしまったら仕方がないですが、『あれをしていたら勝てたのに…』というものはなくしていきたいです」

 残り2試合となったリーグ戦にあって、得てきた勝点は13で8チーム中5位。敗れた立正大、これから対戦する東洋大は勝点14で3位タイと、選手権へ進める3傑入りへのチャンスはまだ残されている。

 吉永の学年が引退の時期を引き延ばすにはまず、活動停止明け最初となる東洋大戦で結果を残したいところだ。

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