コラム 2022.11.10

【ラグリパWest】母と同じ道。河村優子 [関西学院大学ラグビー部/副務] 

[ 鎮 勝也 ]
【ラグリパWest】母と同じ道。河村優子 [関西学院大学ラグビー部/副務] 
3年ぶりのラグビー大学選手権出場を目指す関西学院の副務、河村優子さん。母・友子さんも同志社大のマネージャーだった。



 大学では母と同じ道を歩む。

 河村優子は副務。関西学院のラグビー部に籍を置く。その昔、母・友子は同志社のマネージャーだった。旧姓は森田である。

「体育会に入ったのは母の影響です」

 河村は表情を緩める。普段は引き締まった口元に意志の強さが表れる。在籍は教育学部。教え、導くことに興味があった。学年は4年。ラグビーはこの2022年が最後になる。

「目標は、シーズン前は関西制覇でしたが、現状では関西の3位に入ることです」

 関西学院は3年ぶりの大学選手権出場を視野に入れる。当時は8強戦で明治に14−22で敗れている。56回大会だった。今年の関西枠は3つ。リーグ戦の3位に入ればよい。

 現在は2勝2敗。2つの黒星は京産大と天理につけられた。この2チームは関西の2位以上を確定する。残り3試合に連勝すればそれに次ぐ3位となる。

 昨年は最下位8位。入替戦に出たことを思えば、主将の坂原春光ら部員たちの復活にかける思いは強い。そして、選手権出場が現実になれば、河村には初めてとなる。

 その入部は1年生の冬、1月だった。ひとり暮らしの許可を得るのに時間を要した。母は奈良の自宅から西宮のキャンパスに通うことを望んだ。それだと、授業の前にある朝練習には間に合わない。

 入学後、最初にクラブ見学に行ったのはラグビー部だった。
「母からラグビーの話を聞いたことはありましたが、たまにテレビで見るくらい。ルールも知りませんでした」

 なぜ真っ先に行ったか、未だに明確な理由は見つけられない。
「なんかひかれました」
 母のことが潜在意識の中にあったに違いない。

 幼稚園から高校までは奈良の帝塚山(てづかやま)で過ごした。この学校にはラグビー部はない。
「一生懸命になれるものがありませんでした」
 小中の4年間はバスケットボールをしたが、熱中は続かなかった。

 母には折に触れ、ひとり暮らし、それに伴う入部を懇願する。その熱意に母もついに折れる。入学して10か月が経っていた。
「許可してもらった日はうれしかった。その夜、すぐに東さんにLINEしました」
 東(ひがし)謙太は当時の副務。新入生勧誘の担当だった。

 河村は振り返る。
「2年生になっていたら、入部許可はでなかったかもしれません。代が変わっていますから。1月はギリギリだったと思います」
 運のよさも持っている。

 阿児(あこ)嘉浩はS&Cコーチだ。河村とグラウンドで毎日顔を合わせる。
「途中から入ってくる子は優秀です。それだけの覚悟を持って入ってきますから」
 遅れはマイナスにはならない。

 最終学年、河村は副務として、日吉拓海を支える。同学年の主務である。日吉はトレーナーも兼務しているため多忙である。

「私の役目は7人いるマネージャーをまとめることです。学校との折衝もあります。各種の申請を出したり、話し合いをしたります」

 関西学院は夏合宿で4年生にTシャツを送る。感謝の寄せ書きが入る。河村のそれには「姐御」(あねご)とプリントされていた。
「私は部内での立ち位置を意識しています」
 主務の日吉はお父さん。なら、私はお母さんでいこう。細かいところに気を配り、チーム良化のため、感じたことは口に出す。

「ラグビー部に入れてもらえてよかったです。組織の中での立ち居振る舞いや大人の人たちとの付き合い方を学べました。普通の学生生活を送っていたらできなかったと思います。私はこのチームが大好きです」

 だからこそ関西リーグで3位に入り、59回目の大学選手権に出たい。

 母のラグビーは大学選手権の1回戦で終わった。大会は26回。大東文化に17−19と終了間際に逆転負けを喫した。12月。花園ラグビー場の氷雨は涙雨に変わる。当時は8校制だった。

「母は教えてくれました。大変やったけど、大学4年間の経験や人とのつながりは今でも残っている、生きていると」

 10月30日、関西学院は同志社に38−34と勝利する。終了間際の逆転勝ちだった。河村にとって3回目、最後の母娘対決だった。
「母は同志社のOGなのに、おめでとう、と言って、よろこんでくれました」
 母はどこまで行っても母である。

 母の同志社入学は大学選手権3連覇の2年あとだった。帝京の9連覇までこの3が最長の数字だった。当時、マネージャー志望者は列をなした。倍率は5倍とも10倍ともいわれ、入部試験が課せられた。教えは「裏方に徹せよ」だった。

 母は今も裏方に徹する。あの時の紺グレの部員たちは娘に変わった。時には厳しく、しかし愛情を注ぎ育て上げて来た。

 河村は朱紺ジャージーを勝たせたい。それはすなわち恩返しのひとつになってくる。


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