国内 2022.11.10

昇格即初の大学選手権へ。立正大ラグビー部は足技とチェイスに「しつこく」こだわる。

[ 向 風見也 ]
昇格即初の大学選手権へ。立正大ラグビー部は足技とチェイスに「しつこく」こだわる。
10月16日の大東大戦でボールを高く蹴り上げる立正大のSH中森隆太(撮影:桜井ひとし)


 立正大ラグビー部は、簡単に流行りを追いかけない。信じたスタイルをやり切る。元日本代表SHで1999年就任の堀越正己監督は、実感を込める。

「しつこくやることでうまくなったり、気づきが生まれたりする。一生懸命やることで、いろんなものが見えてくると思うんですよね」

 今季、通算3度目の昇格を果たしていた関東大学リーグ戦1部で独自色を打ち出す。

 軸に据えるのは、長短を織り交ぜたキックだ。

 ボールを追いかけて再獲得を狙ったり、落下地点へ圧をかけたり。敵陣22メートル線付近まで攻め込んでからも、テンポが生まれなければ接点から高い弾道を蹴り上げる。

 走り屋が入ることの多いタッチライン際のWTBへも、キック力のある選手が並ぶ。極端なまでに足技にこだわる。

 10月30日、埼玉・セナリオハウスフィールド三郷で第5週に挑む。全国優勝3度で今季そこまで3勝の法大にも、己の型で挑む。

 ひたすら蹴り続け、法大の捕球ミスを誘いながら前半33分までに19-6とリード。前半終了間際には中盤からの攻防で、3度にわたってハイパントを繰り出す。敵陣に滞留する。

 後半は起点のスクラムでの優位性も活かし、着実に加点した。後半30分に50-11と差をつける過程でも、足技、ボールが渡った先での地道な防御を重ねた。

 64-18。今季3勝目をマークした。

 目指すは全国大学選手権出場だ。リーグ戦から選手権へ進めるのは8チーム中3位以内。2試合を残した時点で、立正大は勝点14で3位タイである。前年度から順位が大きく入れ替わる今季のリーグ戦にあって、異彩ぶりを結果につなげつつある。

「能力の高いチームに対して、よく戦っているなと感じます」
 
 堀越監督が語ったのは11月5日。埼玉県熊谷市内の本拠地で取材に応じた。

 2014年度、それまで2シーズンいた1部から降格。いまの戦い方を定めたのは、2部でもがいていた2019年度のことだ。1部への再昇格と、その後の定着を目指してのことだ。

 チャレンジャーがその時のトレンドに沿ったラグビーをしていては、優れた身体能力、経験値を誇る対戦相手がかえって有利となりかねない。現役時代に体格差のある列強国へ挑んできた堀越にとっての、それが皮膚感覚だろう。

 現職に就き20年目を迎えたタイミングで、その原点へ立ち返ったか。強大かもしれない敵の土俵へは乗らず、独自のスタイルを作るよう努めた。ひとつのことにまっすぐ取り組める、現存部員の特徴を活かした。

「(立正大の選手に)能力は、あるんです。自分たちの特徴を踏まえ、1部のチームに勝っている部分を抽出していったら、この(いまの)戦い方が合っているんじゃないか…となりました。強みは、他のチームと違うほうがよかったりします。『何でもできる選手』が求められているいま、(独自の強みに)特化した形を活かしています」

 手軽に情報を得やすい現代社会にあって、「理解をしてもらうのにすごく時間がかかる」と堀越監督。立正大の目指すスタイルが、選手が前所属先やインターネット上で親しんできた動きとは一線を画すからだ。

スクラム練習をする立正大フォワード。セットピースも鍛える(撮影:長岡洋幸)

 そのため指揮官は、選手をひとつの方向へ進めたコーチ陣を賞賛する。

 理想を形にするのは、祝田康彦ヘッドコーチ。全国各地で指導する君島良夫キッキングコーチ、元日本代表でサイズに頼らず勝機を見出す横井章アドバイザーら外部指導者のエッセンスも参照にしながら、具体的なゲームプランを練る。

 果たして前年度の入替戦を制し、今季の1部で白星を積み上げてきた。

「過去のゲームリーダーを含め、選手たちといろいろな試合のビデオを観ながらキックの有効性を話して、(いまのスタイルを)作っていきました。繰り返し、繰り返し…です。いまはこちらがいろんなことを言わないでも、選手間で何をすべきかのキーワードを出せるようになってきています」

 太田正則チームディレクターは、日本代表の肉体強化部門に携わった経験を活かしてスタッフ、選手の動きを統括。今季はけが人が少なく、「いい形でトレーニングができている」。コンディショニングの向上も、スタイルの再現性を支える。

 4年生SHの中森隆太は、貴重なキックの供給源の1人としてここまで全試合に先発している。

 出身の東福岡高ではパスさばきのテンポアップに注力し、グラウンドの横幅をいっぱいに使って展開してきた。それゆえ、大学でキックを磨くよう告げられた当初は「全然、蹴れなくて…」。首脳陣の意図を理解し、個人練習を積み、いまの立場を得た。

「最近、入ってきた後輩は上手に蹴るんですけど、(以前の)僕は本当に下手で…。でも、試合には出たい。チームにアジャストしていかないと。ラグビーをやっている人からすると『なんでそんなに蹴るんだよ』と思うかもしれませんが、キックして、それをキャッチできれば、その1回だけで15~20メートルは陣地が取れる。理には叶っています」

 主将の陣内源斗は、与えられた課題をくみ取ったり、実践したりするのに秀でているという。ヘッドコーチながら部員の就職活動も助ける祝田が、そう証言する。

 ちなみに陣内はFL出身もいまはHOに転じてセットプレーと防御網を支え、元NO8のキニ・ヴェイタタはアウトサイドCTBとしてハイボールの捕球、防御、大外の突破で魅する。祝田は、いまの主力組がポジションチェンジを経て花を咲かせていることに喜ぶ。

 リーグ戦は終盤に突入した。陣内は丁寧に話す。

「シーズンを通してゲームコンセプトが体現できてきていると感じております。1部では格上と試合をすることがほとんどななか、(周りと)同じラグビーをするよりも違うラグビーをした方が相手を翻弄できる。1部復帰初年度で3勝し、これから浮つく部分も出てくると思います。気を引き締め直し、おごらずにチャレンジしたいです」

 13日には栃木・足利ガスグラウンドへ出向き、目下2位の流経大と激突。続く27日には東京・江戸川区陸上競技場で、立正大と同じく今季昇格して現在3位タイの東洋大へ挑む。陣内は「ここからがヤマ」と締める。

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