リーチ マイケル×サム・ケイン。「10・29」への思いは。
前売り券完売。東京・国立競技場に約6万5000人のファンを集めそうな10月29日の一戦は、ゆかりの深い者同士の再会の場でもある。
「リポビタンDチャレンジカップ2022」と銘打つ日本代表とニュージーランド代表のテストマッチ(代表戦)。ワールドカップ3度優勝のニュージーランド代表でFLとして先発のサム・ケイン主将は、日本代表の対面に入るリーチ マイケルとは所属するチーフスでチームメイトだったことがある。
「リーチは日本代表のハートとソウルです。いい選手なのは間違いない。今回、いい試合をして、試合後には一緒にビールを飲みたいです」
ケインの言葉通り、リーチは2015年からの3シーズン、チーフスに在籍。国際リーグのスーパーラグビーに挑んだ。当時、日本代表の主将だったリーチは、同じポジションに入るニュージーランド代表戦士のケインを「目標」としてきた。
その頃に応じた取材で、こう述べていた。
「練習の時はできるだけ彼より走って、彼よりタックルするようにしている。サム・ケインは、一番しんどいときにがんばっている選手だから。個人練習も、ウェイトトレーニングも、全部、彼と一緒にやっている。彼は気付いていないかもしれないけど、俺は彼をむちゃくちゃ意識してる。ふふふ。まだまだ、勝てないけどね」
両者が対戦したのは2018年3月24日。東京・秩父宮ラグビー場でのスーパーラグビー第6節。リーチは日本のサンウルブズの一員として先発し、10-61と大敗するまでの間にチーフスのケインに手痛い一撃を食らったという。
日本代表として挑む今度の試合を翌日に控え、笑って述懐した。
「オールブラックスのなかで気になる選手はほぼ全員ですが、チーフスで一緒だったサム・ケインとやるのが楽しみ。前回、(サンウルブズ対チーフスで)対戦した時、彼にタックルされて肋軟骨が折れたので…やり返したいな、と思います」
再会の時が近づく2人はいま、それぞれの道を歩んでいる。
ケインに刺激されたリーチは、2度のワールドカップで務めた日本代表主将の座からすでに退いている。2大会連続での決勝トーナメント進出を目指すチームにあって、いち選手として好調を保つ。坂手淳史主将が引っ張るチームの現在地について、端的にまとめる。
「自分たちのラグビーは、勝てるラグビーだと信じている。力もあって、トライも取れて、ディフェンスも、できる時はできる。チームの完成が近づいています。新しい選手もチーム(の一員)になってきた。これからやらなきゃいけないことは、タイトな試合で出てくる課題をどうクリアするか、です。練習やティア2(新興国)の試合から出る課題と、トップの試合から出てくる課題は(質が)違います」
ケインは2020年、通称「オールブラックス」ことニュージーランド代表の主将に就任。勝利を義務付けられるラグビー大国のナショナルチームにあって、船頭役を担う。
ところが昨秋からアイルランド代表、フランス代表、南アフリカ代表、アルゼンチン代表から黒星を喫し、議論を招いている。
試合をするスタジアムでの前日取材の場で、笑みを浮かべつつ吐露する。
「試合がうまくいかないと、ファンの皆さんからいろいろと『もっとこうした方がいいんじゃないか』といった意見が出てきます。それで、ちょうどいいのだと思っています。なぜか。ファンがチームを心配し、サポートしてくれていると感じられるからです。ファンはチームに成功して欲しいからそれだけ熱くなっているのだと、私たちはわかっています。ただ、負けた時、一番苦しんでいるのは私たちチームです。我々の目標は、ひとつずつ成長、改善していくことです」
2023年のワールドカップ・フランス大会に向け、いずれも強化の途中段階にある。今度のゲームは、それぞれのチームにとって今後に向けた試金石となりうる。
むろん、テストマッチである以上は結果も問われる。
勝負の鍵は。
若手を起用しながら貫録を示したいニュージーランド代表のケインは、まず、ぶつかり合いを制してペースを作りたい。
「毎試合、さまざまな点をフォーカスしますが、今回はスクラム、ラインアウトにフォーカス。後は、ブレイクダウン(接点)。日本代表は攻守とも接点が強いので、(練習では)その点にも注力しました」
かたや緻密な連係攻撃を誇る日本代表のリーチは、王国の力を無力化させたいと話す。
「ゲームマネジメント。相手の勢いをどれだけ止めるか、コントロールできるかが(勝利の)要因になる」
人対人、組織対組織。いずれの側面でも味わえそうなゲームが、まもなく始まる。