ワールドカップ 2022.10.29

【RWC2021】ハンディキャップにも屈せず。CTBマエル・フィロポン[フランス]

[ 福本美由紀 ]
【RWC2021】ハンディキャップにも屈せず。CTBマエル・フィロポン[フランス]
フィジー戦で疾走するマエル・フィロポン。(Getty Images)



 ニュージーランドで開催中の「ラグビーワールドカップ2021」のプールステージ最終戦でフランスは、前週のイングランド戦で課題であったアタックの課題を修正し、7トライを挙げ、44-0でフィジーを下し準々決勝に駒を進めた。

 この試合の前からキャプテンのガエル・エルメは「フィジーのプレーにとてもインスパイアされる。彼女たちのプレーは自由に溢れている。本能で、彼女たちが思うようにプレーしている。ゲームプランに閉じ込められることなく果敢にチャレンジし、プレーする喜びを感じさせる」と対戦相手のプレーを賞賛していた。

 試合後、HOロール・トゥイエが「練習で一番楽しかったのは、仮想フィジーのアタックを演じた時だった。腕を使いオフロードパスでボールを繋ぐ、こういうラグビーをしたかった」と話していたように、それまでのキッキングゲーム重視のゲームプランから解き放たれ、ボールを持って相手ディフェンスに切り込み、パスを繋ぎトライを生んだ。

 開幕の南アフリカ戦、そしてイングランド戦と激しいフィジカルバトルが続き、大きくメンバーを変えてきた第3戦で、最初の2戦でゲームキャプテンを務めたLOセリーヌ・フェレとCTBマエル・フィロポン(25歳)の2人だけが、3試合続けて同じ背番号をつけている。

 フィロポンは2016年に代表デビューし、3度の膝靭帯負傷を乗り越えて今大会代表スコッドに選ばれ、代表チームの「13」に定着しつつある。

 フィロポンの生みの親は育児不適格と判断され、生後6か月の時に現在の育ての親に引き取られた。

 引き取ってくれた家庭が大のラグビーファンだったことから、フィロポンも6歳の時にラグビーを始めたが、顔にケガを負ったことで家族の意向でラグビーから柔道に転向した。
 柔道を3年続けたが、どうしてもラグビーに戻りたかったフィロポンは友人と親を説得しラグビーを再開した。

 タックルの怖さはあったが、柔道で身につけた受け身のテクニックで克服した。

 もう一つ克服しなければならない課題があった。
 フィロポンは聴覚障害を持って生まれた。高い音が聞こえないのだ。4歳の時に聴覚障害があることがわかり、それ以来補聴器を装着して生活しているがグラウンドでは外さなければならない。

 レフリーの笛の音が聞こえなくて、笛が吹かれた後にタックルをしたこともあった。
 そのハンディキャップを視覚で補った。「障害を持つ人がよく言うように、障害を受け入れると生きていくための解決策が見つかる。私の場合はよく見て観察することだった」とフィロポンは明かす。

 時とともに相手のプレーを先読みできるようになった。
「日常生活で人の唇を読めるようになったのと同じ。相手がパスをするかどうかがわかるようになった。レベルの高い試合では自分のことに集中しなくてはならないし、広範囲の視野を持つことを学んだから、今は昔ほどしていないけど」と続ける。

 今も満員のスタジアムでは歓声でチームメイトのサインが聞こえず、チームメイトのところに聞きに行くが、「味方がランのコースを変えるときは聞こえなくても反応できる」という。

 フィジー戦では敵のタックルに抗いながら2つのトライを決めた。
 また16歳になるまでバックローだったフィロポンは、先のイングランド戦では波のように繰り返すイングランドの猛攻に対して15のタックルを決め、ジャッカルも2つしている。

 準決勝のイタリア戦のメンバーが発表された。
「フィジー戦は頭ではなく、選手としての本能でプレーできた。もう誰もゲームプランに閉じ込められることはない」と話していたフィロポンは今回も背番号13をつける。
 この試合で代表キャップは20になる。

 イタリアとは9月の準備試合で1勝1敗だった。
 フランスチームは今大会に入ってからの進化を見せることができるかどうかが試される。


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