日本代表 2022.10.10

「下を向いて人のせいにするより、前向きに反省」。リーチ マイケルの奮闘と決意。

[ 向 風見也 ]
「下を向いて人のせいにするより、前向きに反省」。リーチ マイケルの奮闘と決意。
終了間際、リーチ マイケル(右から3人目)らジャパンは懸命に守ったが、トライを許し逆転劇に(撮影:早浪章弘)


 ジャージィの胸元は血で染まった。リーチ マイケルが奮闘した。

 日本代表として3度のワールドカップに出て8強入り1度の34歳は、10月8日、福岡・ベスト電器スタジアムに立った。

 ナショナルチームに相当する「JAPAN XV」の8番をつけ、対オーストラリアA・3連戦の2試合目に挑んだ。シリーズ初勝利を目指した。

 ジョン・ミッチェル アシスタントコーチの教える防御システムに倣って、鋭くタックルを打ち込む。すぐに起立。向こうの援護役が接点へ駆け込んでくる前に、ジャッカルを試みる。コンマ数秒に満たない時間で、地上戦でのわずかなスペースを確保しにかかる。

 攻めてはグラウンド端側での突進で、スタンドから「リーーーチ!」コールを招く。前半20分の好機では、敵陣22メートルエリアでの一連の流れで2度のボールタッチ。攻防の境界線を前に押し上げた。

 15歳で来日した身長189センチ、体重113キロの名物戦士は、かねて悩まされた故障が癒えたことで練習量を増やしていた。己を追い込むほど力を高める。

 その性分を、プレーで表す。

「個人的にはボールタッチの回数、タックルの回数、ポジティブアクションの回数をどれだけ増やせるかが課題なので、そこは意識してやりたいなと」

 11-15と4点差を追う後半18分。自陣22メートル線右の自軍スクラムから、味方FBの山中亮平がキックを放つ。球が敵陣10メートル線付近右まで飛ぶなか、リーチはハーフ線付近で味方と横一列に並ぶ。防御に備える。

 まず、走り込んでくる相手WTBのディラン・ピーチを捕らえる。同僚でLOのワーナー・ディアンズとともにつかみ上げ、レフリーの指示でその場を抜け出す。間もなく、右側の隙間を埋める。

 今度の獲物は、接点からパスをもらった左PRのハリー・フーパートだ。JAPAN XVの左PRに入ったクレイグ・ミラーがフーパートを倒すと、リーチはその手元の球へ絡む。ジャッカル。
 笛を聞く。

 倒れた人が手にした球を離さないノット・リリース・ザ・ボールの反則を誘い、拍手と歓声を呼んだ。

 ここから約4分間、JAPAN XVは攻め続ける。フィニッシュもリーチが決める。

 敵陣ゴール前中央でペナルティキックをもらうと、自ら速攻を仕掛けてトライラインに迫る。あと1歩だ。隣でできた接点に駆け寄り、ボールを拾い、地面を滑り込むようにしてタックラーをかいくぐる。腕を伸ばし、逆転トライを決めた。

 直後のコンバージョン成功で18-15としたJAPAN XVは果たして、リードを6点に広げて最終局面を迎える。

豪州Aとの第2戦、後半22分にトライを決めたリーチ マイケル(撮影:早浪章弘)

 後半34分自陣22メートル線上左の相手ボールラインアウトをリーチがスティール。ピンチを防ぐ。

 結局、ラストワンプレーで21-22とされて惜敗も、リーチは存在感を示した。

 着替えを済ませ、ミックスゾーンで立ち止まると、柵の向こう側の記者団へこう残す。

「皆、ロッカールームでがっかりしていましたけど、がっかりしている時間がもったいない。切り替えて、来週に。自分たちの準備を見直して、さらにいい準備をすることが大事」

 大阪・ヨドコウ桜スタジアムでのシリーズ3戦目を14日に予定するなか、8日に見えた課題を肥やしにしたいという。

 チーム全体の戦いを振り返れば、前半31分に相手にトライを与えている。オーストラリアAのカウンターアタックからの連続攻撃で、防御の隙間を突かれた。

 そのシーンを後述するリーチの言葉は、「チェイスライン(蹴った先で敷く防御網)の間で半ズレされた(わずかにかわされた)ところもあった。でも、すぐ修正できると思います」だった。

「それがティア1(上位国クラス)の厳しさ。ワールドカップのプールを見たら、危ない選手だらけ。あまり下を向かずに、修正して来週につなげないといけないです」

 最後に勝ち越されたシーンでは、モールを押し込まれた。しかし、「(相手の塊への)仕掛けがもうワンテンポ、早くないといけない。それもいい経験になった。前向きに考えています」とリーチ。総じて「前向き」であるべきと強調する。

「最後まで勝てていて、負けたというの(内容)をどう見るか。キック(1点リードの際に決められた最後のコンバージョンゴール)が外れれば話(結果)は違うし、前向きに捉えないと。ずっと下を向いて人のせいにするよりも、前向きに反省して頑張る」

 日本代表は29日、東京・国立競技場でニュージーランド代表“オールブラックス”と正規のテストマッチをおこなう。11月にはイングランド代表、フランス代表と敵地でぶつかり、来秋のワールドカップ・フランス大会を見据える。
 
 いわば「JAPAN XV」名義でおこなう今回の強化試合は、前哨戦のそのまた前哨戦といった趣がある。選手がチームですべきことを高次で共有し、強豪国を自分たちの土俵へ引きずり込めるだけの土台を築くのが狙いだろう。リーチは言う。

「本番はオールブラックス、イングランド、フランス。この3戦(対オーストラリアA)で学んだことを、国内最後のオールブラックス戦でどれだけ出せるか。ここでやっと、チームの位置がわかると思います」

 ワールドカップでの成功体験を持つ実力者は、目先の勝敗に動じていない。

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