相手の研究に屈しない空中戦の匠。明大・山本嶺二郎、夏場のピンチに固めた覚悟。
世田谷区内のグラウンドで通常練習を終える。引き上げる道すがら、反省しきりだった。
山本嶺二郎。明大ラグビー部の3年生LOは、身長190センチ、体重107キロの巨躯を丸める。
「調子は悪くなかったんですが…。改めて、大学のラインアウトのレベルは上がってきている。僕自身、成長しないといけないなと」
話題は9月10日、東京・駒沢陸上競技場でのゲームに及んでいた。加盟する関東大学対抗戦Aの初戦。自軍ボールのラインアウトで圧を受け続けた。
ラインアウトとは、タッチライン際から試合を再開させる際のプレーの起点。ゴールラインと平行に両軍の選手が並び、攻撃側が投げ入れた球を奪い合う。
捕球役の長身や跳躍力のほか、リフターと呼ばれる捕球役の支柱となる選手の技術、妨害されずに球を得るための相手との駆け引きも求められる。
山本は、その領域で高く評価される学生選手のひとり。全国の俊英が集う明大にあって、昨季から先発LOの座とラインアウトの作戦立案役を担う。
ところが筑波大戦ではキックオフ早々、ハーフ線付近左での1本を取り損ねる。山本自らが列の前方で飛ぶも、対する筑波大の横溝昂大ショーンにほぼ同じタイミングで競られたためだ。
研究されていたようだ。28分頃には、敵陣ゴール前左での1本で味方LOの亀井茜風にジャンプさせたところ、またも横溝に競られた。レフリーには、ボールが明大側に逸れたと見られた。投入役でHOの松下潤一郎が球を真っすぐ放らない、ノットストレートの反則を取られた。
明大は続く34分頃にも、ラインアウトで横溝のスティールを許した。前半ロスタイム41分頃の1本では、またもノットストレートを招いた。
状況を打破すべく、山本は適宜、味方の立ち位置や動きに変化をつけた。出すサインにもバリエーションをつけた。ただし当日は、プレッシャーを受けた味方投入役へのケアが不十分だったと悔やむ。
「HO(投入役の松下)を落ち着かせればよかったんですけど。それもコーラー(サイン伝達役)の仕事です」
タッチラインから向こう15メートル以内における攻防を制するのに、本当の意味での広い視野を持たなくてはならないとわかった。
最後は「強みにしている高さを見つめ直そう」と修正に成功。33-22で白星をつかめたが、山本は繰り返す。
「ラインアウトをもう一回、見つめ直す。いままで通りにはいかないというのが筑波大戦でわかったので、もう一回、成長したいです」
話をした2日後にあたる9月18日、群馬の敷島公園サッカー・ラグビー場に山本はいた。明大の4番をつけ、対抗戦2試合目に臨んだ。
雨に降られるなか、日体大を74-0で下した。その間、16本あった自軍ラインアウトは13本を確保した。
筑波大戦時は14本中10本のキープに止まっている。両日に受けた圧力の違いを差し引けば、荒天に見舞われながらも自軍ボール獲得率を約10パーセントも高めた事実だけが残る。
ボールが動き出してからも山本は光った。攻めては突進と接点周辺でのパス交換でリズムを生み、守っては得意のロータックルを重ねた。
前半16分には、大きく球を揺さぶる連続攻撃の仕留め役として先制トライを決めた。
続く36分頃には、敵陣ゴール前左での相手ボールスクラムを2列目からプッシュ。その2フェーズ後、球を蹴り出そうとする相手選手に鋭く迫った。キックの飛距離を限定した。
交替で退く後半12分には、43-0とほぼ勝負をつけていた。
一歩、一歩、進む。山本はこうも話している。
「チームとしてクオリティを高める。明大のラグビーというのをどんな相手にも見せられるようにしたいです。個人としては自分の強みとしているところをもっと高める」
幼稚園児のうちから常に「背の順は後ろのほう」で、靴のサイズは「高2くらいで31センチ」。体格に恵まれた少年は、関大OBでもある父の拓生さんの影響で楕円球と出会った。
洛西ラグビースクール、西陵中を経て門を叩いた京都成章高では、高校3年時に高校日本代表入り。明大では今季から、味方を引っ張る役回りも意識。インサイドCTBの廣瀬雄也ら、下級生時から1軍入りする同級生とともに、「学年関係なくやれている」と話す。
さらに決意を固める出来事が、開幕前にもあった。
チームが福島合宿を実施していた8月上旬、発熱やせきの症状を訴える部員が続出。流行りの新型コロナウイルスとは異なる菌によるものだったが、チームには漠とした不安感が渦巻いた。
同月中旬以降の菅平合宿では、多くの主力が練習試合で戦えなかった。結果が出なかった。
この時、山本も戦列を離れていた。元気になるまでの間に、考えを整理した。
「(自身がいないチームの試合では)結構、ミスが多かった。自分が入っても特別なことはないですが、どう雰囲気を上げるかは意識するように。あとは、自分のプレーに責任を持とう、とは思いました」
ひとりひとりの勇気を引き出すような声かけを重ね、ひとつひとつのプレー機会をミスなく全うする。そうすれば俊英揃いのチームの通常運転を促し、対抗戦制覇、さらには4シーズンぶり14度目の大学日本一へ近づけるという算段か。
体調不良に悩んだ夏頃の心境について、改めて聞かれる。「休んでいた分、しっかり働いていこうと思っています」と、穏やかな表情で先を見据える。