国内 2022.09.21

闘将は日本一を本気で信じる。司令塔の「オーガナイズ」で蘇生。9月の慶大ラグビー部。

[ 向 風見也 ]
闘将は日本一を本気で信じる。司令塔の「オーガナイズ」で蘇生。9月の慶大ラグビー部。
9月17日の立大戦、後半途中出場で活躍した中楠一期(撮影:福地和男)


 慶大ラグビー部の今野勇久主将は、かねて言っていた。

「自分たちが持っている力を出せればどの大学にも対抗できるし、勝てるという感触を春、夏を通して持っています」

 今季は3年ぶりに夏合宿を実施できた。他校との練習試合、合同トレーニングを通し、手応えをつかめた。好タックルからの攻守逆転、起点のエリアを問わずトライラインを射抜く連続攻撃…。

 全てのゲームで相手を自軍の世界に引きずり込むことで、加盟する関東大学対抗戦A、冬の大学選手権を制するイメージか。

 日本で最初にできたラグビーのチームでもある慶大が最後に大学日本一となったのは、創部100周年の1999年度。歴史的背景を踏まえ、今野は続ける。

「日本一を20年以上経験していない。それ(頂点に立つこと)を本気で信じられるかが重要だと思っていて…」

 9月10日、前年度4位だった対抗戦の新シーズン開幕を迎えた。目下、常に「力を出し切る」ことの難しさを体感しているようだ。

 北海道・月寒ラグビー場における初戦では、何度か得点機を逃した。同5位の日体大を43-8で下すも、「ベストじゃなかった」と今野は反省する。

 続く17日もやや足踏みしたか。神奈川・秋葉台公園球技場で、同8位の立大から先制点を奪ったのは前半31分。ハーフタイム突入時は5-7とリードされた。

 後半もペースを握れなかった。連係ミスで好機を逸したり、防御ラインに穴を作ることで相手の直進を許したりと、本来の慶大が大切にしたい組織的なつながりに課題を残した。

 防御でやや後手を踏んだわけは。先制トライを挙げたWTBの佐々木隼副将は、球の出どころとなる接点での動きを挙げた。確かに接点で相手の球出しを鈍らせれば、その間に防御網を整えやすくなる。

「一人ひとりが低く刺さってブレイクダウン(接点)で力強くファイトすることを、もう少し精度高くやっていけたらと思いました。(今後は)練習からゲームを意識してやっていきたいです」

 最後は36-7で2勝目を挙げるのだが、潮目が変わったのはラスト15分を切ってからだ。

 15-7とリードしていた後半27分、1年時から主力格だった4年の中楠一期が途中出場。司令塔のSOの位置へ入った。

 ファーストプレーで、自陣22メートル線付近からロングキックを放った。その弾道を追ったのは、SOからCTBに移ったばかりの永山淳。敵陣中盤で好タックルを繰り出した。

 立大が確保した球を蹴り返すと、慶大はグラウンド中盤右で捕球。一気に左へ展開した。左中間では中楠が防御を引き付け、大外でノーマークとなった味方を走らせた。

 この連続攻撃は落球で止まるものの、慶大はまもなく攻撃権を取り返した。FW同士のパス交換で防御網を破り、敵陣の深い位置へ進む。相手の反則を誘う。

 33分、敵陣ゴール前左のラインアウトを確保。パスをもらった中楠がフィニッシュした。直後のコンバージョン成功で22-7。

 慶大は以後、踏ん張る立大のタックルを外す機会を増やし、着実に加点した。その過程では、中楠のエリア管理が冴えた。中楠のキックを受けた向こうの蹴り返しから、FBの山田響が好カウンターアタックを繰り出すシーンもあった。

 殊勲の背番号22は、この日の投入前、投入後の心持ちについて淡々と述べた。

「(投入前は)エリアの取り方、アタックの積極性では改善点があると感じながら見ていました。(投入後は)しっかりコミュニケーションを取ってチームとコネクトする(ことを意識した)。僕が入っても(ポジション外の仕事になる)セットプレーや個人の質は変えられないかもしれないけど、チームとしてやることのオーガナイズはできる。それを意識しました」

 組織力で勝ちたい集団にとって、組織力を高められるコンダクターは得難き存在だ。

 チームを率いる栗原徹監督は、これまで「コンディションの問題」で欠場していたという中楠へ「本調子までもう少しですが、久々の試合としてはよかったと思います」と及第点を与える。これまで司令塔を担ってきた永山のことも「大きく成長しました」と称賛。今後の併用を示唆する。

 主将の今野はこの日、FLとして2戦連続で先発した。出血による一時交替を繰り返しながら、ノーサイドの瞬間まで身体を張った。

 初戦を経て「自分たちでリズムを崩してしまうと難しいゲームになると、肌で実感できた」と話していたが、それと似た展開だったかもしれぬ2戦目を受けてどう次へ進むか。

 栗原監督は書面で応じる。

「春夏の積み上げてきたことをチャレンジしながら、成長を積み上げることです。一戦、一戦、正念場ですので、それ以上の余裕はありません。今後はゲーム理解、ゲームフィットネス、セットピースとそこからの攻防を積み上げて行きたいと思います」

 次戦は10月2日。埼玉・熊谷ラグビー場で青学大(昨季7位)とぶつかる。

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