スローガン表現に著名書家、コンタクト練習には記者も招待? ブレイブルーパスが会見
テレビでもおなじみの書道家、武田双雲氏が東芝の府中事業所にやってきた。
同社から独立して2年目となる東芝ブレイブルーパス東京のチームスローガンを、書にしたためるためだ。
『猛勇狼士――我ら、接点無双、猛攻猛守の紳士なり。』
前身の東芝時代から、「接点」と呼ばれるぶつかり合いの局面にこだわってきたブレイブルーパス。リーグワンという新装開店して間もない国内リーグにあって、荒岡義和社長は繰り返す。
「世界有数のユニークなラグビークラブを目指したい」
この一環でできたのが、漢字で表現されたプレー哲学だ。その文字を書ききることを任された武田氏は、チームが9月12日に開いた会見で声を弾ませる。
「事前にラグビーの歴史、チームのすばらしさ思いを聞かせていただいた時、鳥肌が止まらなくて…。これから世界を変えていくんだというエネルギーを、どうやって目に見える形で表現できるかを考えました。これからの飛躍に心が躍る思いで、筆をとらせていただきました」
著名な書家をチームと引き合わせたのは、今年からチームに入った星野明宏プロデューサーだ。「一流に触れる」ことが大事だから、とのことだ。
広告代理店勤務を経て静岡聖光学院のラグビー部監督、校長などを歴任した星野氏は、荒岡社長やスタッフに運営面の助言を施す。
さらに他のプロスポーツにはない、ラグビーのチームならではのプロモーションを模索してもいる。
所属選手で日本代表のリーチ マイケルと手を組み、アジアでの競技普及のプロジェクトを立ち上げた。ラグビー新興国のコーチやプレーヤーへ、クラブのメソッドを共有する。それをビジネスとして展開したい。ゆくゆくはアジア発のスターを育て、その選手の出身国から放映権料を得ることも視野に入れる。
クラブは活性化する。それまで見えていなかった、数値上のミッションが定まった。12月中旬からの新シーズンは「平均入場者数8000人」を目指すと、荒岡社長は言う。初年度実績の倍だ。
「これくらいの目標を掲げなくては。リーグワンを引っ張る気持ちでやりたいです」
記者会見を終えると、クラブスタッフは武田氏を連れて近くの練習グラウンドへ足を運ぶ。書を見せる。
選手たちが歓声をあげる。その輪にいたトッド・ブラックアダー ヘッドコーチは、整った顔をほころばせる。
改めて、やや神妙な表情を作る。
「すごくパワフルな言葉を改めて目にすることができた。彼(武田氏)は想像力を使い、あのような作品を作られた。我々は、これを選手たちが生きて表現できるようにしていく必要がある。タフな仕事です」
今年5月までのリーグワン元年ではプレーオフトーナメントに進出。前身のトップリーグ時代を含めて6シーズンぶりの4強入りを果たした。レギュラーシーズンでは、最後に準優勝する東京サントリーサンゴリアスを下して話題を集めた。
今度は、常勝集団の牙城を崩したい。
トップリーグ最終年度から2連覇中の埼玉パナソニックワイルドナイツ、不成立だった2019年度(2020年1月以降)を挟んで5季連続で上位2傑というサンゴリアスをプレーオフの舞台で倒すには何が必要か。
ブラックアダーが説く。
「実際に相手をやっつけられるという信念を作ることが大事。そして一貫性を保ち、よりスマートにプレーしていく」
約3年間、魅力的な攻撃システムを組んできたジョー・マドック アシスタントコーチが、このほど退団した。しかし、マドックとともに指導にあたってきた森田佳寿コーディネーターが、オフの間に英国視察で知見を広めた。新たなスタッフも入閣した。指揮官は続ける。
「昨季との変更点がある。ジョーから学んだものをさらに発展させる。それまでうまくいったものを活かし、練習はしたものの活かしきれなかったものは排除していきます。効率性を高めたい」
自分たちが築き上げてきた攻防のストラクチャーをより有効的に使いたい。そのために体力を向上させ、技術を磨く。それがブラックアダーの考えだ。
「例えば、いまはタックルのテクニックに取り組んでいますが、それも効率的にディフェンスをするためです。昨季は、ラックの周りでつい集中力を欠く瞬間がありました。これが効率性を奪っていました。だからタックルの後はすぐに立ち上がって、すぐにつくべきポジションにつくようにする。最終的には、よりフィットネスが高く、強い選手を構築したい。特に(身体接触の多い)前列5枚のポジションでそれを求めています。まだまだ成長の最中です」
元ニュージーランド代表主将で、2019年からブレイブルーパスで指揮を執るブラックアダーは、思慮深い性格で知られる。
晴天に恵まれたこの日は、社会情勢を受け長らくおこなわれなかった対面での囲み取材があった。ボスは記者団に「Nice to meet you」と繰り返した。
以前から報じられている、指揮官自らが防具を身につけ、肉弾戦の練習へ加わるというエピソードが話題に挙がった。質問した女性記者にブラックアダーは…。
「もし、東芝でプレーしたいのであればどうぞ。スパイクも準備します」
選手と身体を当てる例のセッションは、ウェイトトレーニングの後にすることが多い。ジムでの鍛錬が競技力に直結していると意識づけるべく、そのようなスケジュールを組んだのだ。
ここでもジョークが続く。
「鏡や若い女性の前でかっこつけるためにトレーニングしているわけではないと、選手に理解してもらうためです」
生来のたくましさと優しさをグラウンドで表現し、共感を集め、クラブの求める入場者数を記録できたらよい。