各国代表 2022.08.19

NZラグビー協会の大きな決断。オールブラックスの指揮官は継続へ!

[ 松尾智規 ]
NZラグビー協会の大きな決断。オールブラックスの指揮官は継続へ!
8月17日に会見したオールブラックスのフォスターHC(左)とNZ協会のロビンソンCEO(Photo: Getty Images)


 ニュージーランド(以下、NZ)ラグビー協会は8月17日に、同国代表オールブラックスのイアン・フォスター ヘッドコーチ(以下、HC)の継続を発表。直近7試合では2勝5敗の成績ながらも、来年のワールドカップ・フランス大会まで指揮を任せることになった。

▼HC継続の裏にはドラマがあった。

 ザ・ラグビーチャンピオンシップ第2節の南アフリカ戦を前に、メディアを中心にある言葉が大々的に取り上げられるようになった。
「HCの最後の試合となるだろう」
 メディアの憶測か定かでないが、この言葉が独り歩きしていた。7月にホームでアイルランドとのテストシリーズを1勝2敗で落とし、南アフリカとの1戦目も良いところがなく敗戦。誰もが2戦目の勝利は厳しいと予想していた。

 しかし、メディアの言葉を耳にしたオールブラックスの選手たちが試合で奮闘した。

 1戦目の敗戦からオールブラックスがハイパント処理、ブレイクダウンをはじめ改善点を見事に克服。終盤に逆転されるものの、最後まで気持ちが切れずに見事な立て直しでリベンジに成功。まさに強いオールブラックスが戻ってきたのだ。

 試合終了後、フィールド上でHCと選手たちは、勝利をかみしめていた。HCとハグをして涙ぐんでいる選手もいたようだ。

 その後、『Sky Sports NZ』のインタビューでは、HCの笑顔で話している姿が印象的だった。

 インタビューアーは、オールブラックスのレジェンドであるジェフ・ウィルソン。HCに衝撃的な質問をした。
「あなたは、2週間後のアルゼンチン戦でオールブラックスのHCとしていますか?」

 試合前の噂があっただけに、一瞬、間ができる。
 一息ついた後、HCは「私には、わからない」と答えた。
 そして、「今夜は、ただ楽しむだけだよ」と質問をかわすやり取りもおもしろかった。

 その後HCは、レジェンドのマア・ノヌーからハグを求められる場面もあり、和やかな雰囲気がとても印象的だった。NZ国内のラグビーファンもホッとしたに違いない。

 試合後はアーディー・サヴェアをはじめとするシニア選手から次々とHCを支持するコメントが出た。
 HCと一緒にロッカールームでのツーショット写真をSNSに投稿する選手も何人かいた。
 それだけ、選手たちはHCを支持しているということだ。

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 オールブラックス一同が帰国した翌日の8月17日に、正式な会見でフォスターHCの継続の発表となった。選手からも強い支持を受けていることもあり、HCの自信のある語りが印象的だった。

 アイルランドに敗戦後から、フォスターHCはメディアをはじめNZ国内のラグビーファンからSNSでも酷く批判された。それにより体重も減ってしまったようだ。選手も同様に心が病んでいたのは明らかだった。

 しかし、NZラグビー協会は、それを見て見ぬふりをしていたと思われる。マーク・ロビンソンCEOが会見までメディアの前に立って話をしなかったのは、HCだけでなくオールブラックスの選手たちのことも守っていなかったと言えるだろう。最近のオールブラックスの不振は、NZラグビー協会の怠慢な態度も大いに影響していると思う。

 NZメディア、ファンからのプレッシャーをもろに感じている中、選手たちがHCを守ろうとチームがひとつになった。それにより、素晴らしいパフォーマンスで南アフリカに勝利してHCの継続も勝ち取った。

▼HC継続でNZ国内の様子は?

 NZ国内では、ラジオやメディアの動画サイトで会見のライブ中継があった。会見後のメディアの反応は、南アフリカとの2戦目で素晴らしい試合をしただけに、HCの継続に賛成の意見が割と多かったのも興味深い。

 しかし、ラグビーファンの意見は、トークバックラジオで生の声を聴くとフィフティーフィフティーというところか。フォスターHCになってからの成績に不満を引き続き持っているファンもまだまだ多いようだ。
 NZ国内は、スーパーラグビー6連覇中のクルセイダーズを指揮するスコット・ロバートソンをオールブラックスのHCへ支持する声が圧倒的だ。

 ロバートソンが海外に行ってしまうのではないかと心配する声も多い。既に海外の代表のHCをする準備もしているロバートソンをNZ国内に確保するのも協会の大きな役目だと思う。
 2023年のワールドカップまでフォスターHC継続の大きな決断ができたのなら、2024年からロバートソンをオールブラックスのHCとして今から契約する大きな決断も必要ではないだろうか。

 8月27日にはアルゼンチンとの対戦が控えている。皮肉にも、会場のオレンジセオリー・スタジアムはクライストチャーチにある。そこはクルセイダーズの本拠地だ。フォスターHCへの観客の反応は、いかほどか。

 アルゼンチンとの対戦に向けて、スコッドは8月21日にクライストチャーチで再び集まる。ここから、元アイルランド代表HCのジョー・シュミットが新たにコーチングスタッフに加わる。シュミットの加入は、オールブラックスにとって良い方向に行くと期待されている。

 HC継続の座を勝ち取ったフォスター氏。しかし、ここからの試合が大事になってくるだろう。
 まずは、クライストチャーチでアルゼンチンに勝利するのはもちろんのこと、ザ・ラグビーチャンピオンシップで優勝をして国民の信頼を得ることができるか。

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