日本代表 2022.07.29

サクラフィフティーン玉井希絵。人生初のゲーム主将で抱く「心強さ」。

[ 向 風見也 ]
サクラフィフティーン玉井希絵。人生初のゲーム主将で抱く「心強さ」。
中央が玉井希絵。168センチ、78キロ。10月には30歳になる。左はCTBで出場の山本実。右はFLで出場の長田いろは。(撮影/松本かおり)



 大喜利を流行らせている。

 サクラフィフティーンこと女子15人制ラグビー日本代表の玉井希絵は、まず、9学年下の牛嶋菜々子との逸話を明かす。身振り手振りを交えて。

「釜石最後の夜、デコレーションケーキの差し入れいただいたんですけど、私は1か月ぶりくらいにケーキを食べたので、『うまい!』『優勝!』とやっていたら…」

 チームはこの夏、釜石、熊谷を回っている。食事では全員が同じ方を向き、声を出さない。

「…すると、隣の牛嶋選手がこっちをずっと見ていて、『希絵さんみたいな大人になりたいです』って」

 お題を決めた。日を改め、『』の中身を問い直す。

 大きなリアクションを取る自分を見て、牛嶋菜々子は何と言ったでしょうか?

 まもなく30歳と中堅の年代に入った玉井は、こうして選手と話すのが好きだ。

 レスリー・マッケンジーヘッドコーチに見出された強みは、「どの選手とも分け隔てなく関係を作れること」。LOとしてラインアウトをリードし、接点で身体を張りながら、仲間同士の和を作る。

「年齢、経験とかに関係なく、どんな選手とも会話する。合宿での部屋っ子が若い選手だったら『いま大学でどんな勉強をしているの?』『何を目指しているの』と聞いたり、食事会場で一緒の席の選手に色んな話題を振ったり、大喜利をしたり、なぞなぞを出し合ったり…」

 報道陣に応じたのは7月29日。南アフリカ代表戦を翌日に控え、試合会場の埼玉・熊谷ラグビー場で最終調整に入っていた。

 チームにおける玉井の存在感が伝わる瞬間は、玉井の会見終了後にもあった。

 玉井、長田いろはの後に登壇した山本実が「海外挑戦後の変化」を聞かれた時のことだ。

 昨年、イングランドのウスター・ウォーリアーズに期限付き移籍をした山本は、ちょうど記者団の後ろの席についていた玉井に助けを求めた。

「私と話していて、何か変わったと感じることはありますか」

 そこで玉井が「英語のことを話していた」と水を向けたことで、山本は、海外出身のコーチと通訳を介さずに話せるようになったことなどをスムーズに伝えられた。

 サクラフィフティーンは好調を維持。ワールドカップニュージーランド大会を10月に控え、5月には格上のオーストラリア代表を敵地で破った。7月24日には岩手・釜石鵜住居復興スタジアムで、南アフリカ代表を15-6で制している。

 選手層も拡大する。同カード2連勝が期待される熊谷の一戦では、主将でPRの南早紀がベンチスタートとなる。試合序盤は、玉井が人生初のゲーム主将を務める。

 現所属先の三重パールズ、これまで在籍した大阪ラグビースクールレディース、関西学院大でも務めたことがない重責だ。決定を聞いた時こそ「驚いた」という玉井だが、次第に安心できるようになった。

「チームでアナウンスされてからは、私が何かをするよりも他の選手が『大丈夫ですよ』とよく声をかけてくれて。私が何かを背負うというのではなく、あらためて皆の心強さを感じられます」

 元中学教諭で、男子バスケットボール部で顧問を任された時も「分け隔てなく、色んな人と話せる人に主将を任せていたと思います。そういえば」。
 自分らしさで勝利を引き寄せる。

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