多文化共生。青森山田ラグビー部に見える「優しさ」。
残念な思いを「マジで微妙でした」と表す。トンガ出身のフィリモネ・サイアは、来日して3年目になる。
所属する青森山田のラグビー部は、7月16~18日、長野・菅平高原での全国高校7人制大会に参加。大会初日の予選プールでは2連敗も、2、3日目のボウルトーナメントで優勝した。
サイアは攻守で躍動した。
「(初日は)勝ってないけど、ホテルに帰って皆とコミュニケーションを取って(攻守を修正した)。本当に、嬉しかったです」
当世風のニュアンスで「マジで微妙でした」と振り返るのは、来日した2020年以降の社会情勢についてだ。
ウイルス禍などの影響で、オフシーズンの一時帰国が叶わない。ニュージーランドやトンガに住む3人の兄、故郷にいる両親とは長らく対面できずにいる。
実際には、「微妙」という言葉ではすまされぬほど口惜しかったろう。
「マジで、パパとママには会いたいです。1年生でも、2年生でも、3年生でも会えていない」
もっとも、異国での生活は「楽しい」。10歳で始めたラグビーのよさを、極東の地でも感じられる。
「試合では、俺も青森山田のために頑張るし、相手も自分のチームのためにしっかり頑張る。試合じゃない時は(お互いが)友だちみたいな感じ」
目標は、日本代表のシオサイア・フィフィタ。トンガから日本航空高校石川に渡り、天理大を経て現・花園近鉄ライナーズのフィフィタとはいとこ同士の関係だ。サイアも将来は、フィフィタと似たルートを辿って一緒にプレーしたいと願う。
「大学でも頑張って、早くプロになりたいです」
チームは1968年創部。留学生を迎え始めて2年目にあたる2019年度、冬の15人制全国大会に初出場した。目下、3季連続で参加中だ。
2020年度までの2シーズンは、現・大東大のリサラ・フィナウ、ハニテリ・フィラトア・ヴァイレアを擁して全国で躍動。今季はFBが本職のサイアと、LOを務めるコロ・ソナタネを在籍させる。橋本高行監督は、アイランダーたちの献身に敬意を示す。
「ラグビーに熱い気持ちを持っていて、一生懸命やってくれる。トレーニングもハードにします。日本人のいい見本になってくれる。あとは…優しいんですよね。チームメイトが困っていたら声をかけてくれる。そういったところも、ラグビーだな、と感じます」
7人制大会でリーダーシップを取った神真広も、自軍に留学生がいることを心強く思う。
「チームが悪い雰囲気の時に盛り上げてくれるのが、サイアとタネです。とても助かっています」
さまざまなキャリアの選手が集まる。話をする神も、中学まではサッカーと陸上の走り幅跳びをしていた。
「(記録は)6メートル超え、していました」
小学生の頃、2015年のワールドカップ・イングランド大会に触れた。日本代表が南アフリカ代表を倒すのを、生中継で観た。それ以来ずっとラグビーに興味があり、中学時代に橋本監督に誘われて決心した。
初心者だった入学当初は、スピードが活きるWTB、FBを任された。ところが2年生になると、「タックルがしたい」からと接触の多いCTBに自ら転向。サイア、ソナタネとともに、昨季からレギュラーとなった。
「中学まではボールを手で使うことがなかったので、最初はパスに苦戦していました。でも、学年を重ねるごとに自分でできることが増えて、いまはチームの代表としてタックルができて嬉しいです」
卒業したフィナウとヴァイレアがブレイクした時期には、かねてより強豪だったサッカー部からの転向組も目立っていた。黒に蛍光グリーンが入った青森山田のジャージィは、多文化共生の象徴だ。