国内 2022.07.14

ヤクルト、トップイースト春季トーナメントで連覇。視線の先は「リーグワン」

[ 鈴木正義 ]
ヤクルト、トップイースト春季トーナメントで連覇。視線の先は「リーグワン」
強風かつ炎天下の厳しいコンディションの中、改善点に対して積極的にコミュニケーションを図り、後半の粘り勝ちの土台を築いたヤクルトレビンズ。価値ある勝利を手にして春季交流戦トーナメント2連覇を達成した。(撮影/山形美弥子)
選手・スタッフを代表し表彰式に臨んだLO小川正志キャプテン(左)とFB大城海バイスキャプテン(右)。(撮影/山形美弥子)
高い総合力を発揮したCTB井波健太郎は、「大勢の観客が来てくれたことが優勝と同じくらい嬉しかった」と満面の笑み。「今春は新人や昨年出場できていなかったメンバーも頑張ってくれて、選手層に厚みが増した。連覇できた理由は、チームとして成長できたからだと思う。秋に向けてさらに成長できるよう頑張ります」。(撮影/山形美弥子)
PR古屋篤史(28歳)は日川高/専修大を経て2017年加入。我慢強くタックルし続けるひたむきなディフェンスと力強いボールキャリーが魅力。昨季のバイスキャプテンでもあり、リーダーシップスキルを兼ね備えている。(撮影/山形美弥子)
楕円球の争奪にファイトする、セコムWTB川崎康隆(左)とヤクルトWTB斉藤大智(右)。アタックの継続力を発揮するセコムに対し、ブレイクダウンにこだわり、ボールを奪い返す能力で応戦するヤクルト。激しいフィジカルバトルが繰り広げられた。(撮影/山形美弥子)



 昨年度から開催された社会人トップイーストによる大会「ジャパンラグビー トップイーストリーグ2022 春季交流戦トーナメント」決勝が7月10日、ヤクルト戸田総合グラウンド(埼玉・戸田市)で開催された。

 決勝に駒を進めたのは昨年の覇者ヤクルトレビンズ、そして昨年リーグ戦2位の東京ガスを準決勝で破ったセコムラガッツ。両チームの昨年の対戦成績はヤクルトの2勝。しかしそのスコアは15-7、22-20と僅差で、ヤクルトにとって決して侮れない相手と言える。

「体の大きさで負けているのは事実。あとはグラウンドスピードで対抗する」
 そう試合前に語ったセコムのスコット・ピアスヘッドコーチ。
 対するヤクルトは、「安定して強いセットプレーから素早くボールを動かす」(高安勇太朗監督)ことをテーマにここまで強化をおこなってきたという。

 この日、会場には強い風が吹いていた。
 試合開始後、風上に立ったヤクルトがセコム陣内に攻め込む。前半9分過ぎ、CTB井波健太郎(東海大)の突破からFB大城海(立命館大)がほぼ中央に飛び込んで先制トライ。ゴールも決まって7-0となる。

 その後もヤクルトがセコム陣内でプレーする時間帯が多い中、両チームともディフェンスが機能し、ノットリリースザボールのペナルティを奪い合う展開となり膠着状態が続く。
 20分過ぎ、ヤクルトSH多田潤平(明大)が密集脇の隙を突きトライ。キックも決まって14-0と、このままヤクルトがペースをつかむかに見えた。

「本当はもっとフェーズを重ねたかったが、セコムのディフェンスが良く、なかなか思い通りにはできなかった。」(高安監督)
「前半10分過ぎくらいからプレッシャーを与えられるようになって、そこは50:50でできていた」(ピアスHC)

 試合後それぞれがそう振り返ったように、セコムも粘りを見せた。
 ヤクルト陣内に攻め込む展開も出てくる。31分には、以前の対戦でも十分勝負できていたというスクラムでセコムが押し込み、WTB池松佑眞(福岡工大)が右隅にトライ。ゴールも決まり7点差に迫った(14-7)。

 しかし、その直後にペナルティを得たヤクルトはショットを選択。これをキッカー大城が決めて17-7とした。1トライ1ゴール以上の差を保ったまま前半を折り返す。
 このあたりのゲーム運びの冷静さはさすがだった。昨シーズンの春季トーナメント、リーグ戦と連覇している「試合巧者」らしい展開だ。

 後半になって、スクラムの攻防が激しさを増した。
 ヤクルトが大きく押し込む場面が2回続いたかと思うと、その次のスクラムではセコムが反対に大きく押し込む。セコムは後半17分にはペナルティを得た。
 ショットを選択。それを決めて17-10とした。

 しかし、「自分たちがトライしても、すぐにトライをされてしまう。エラーが多すぎた」とピアススHCが話す通り、またしてもわずか2分後の19分、ヤクルトはペナルティから得たチャンスにモールをしっかりドライブさせた。FL須藤拓真(日大)がトライ。ゴールは決まらなかったが22−10と再び引き離す。
 テーマとしていた「安定して強いセットプレー」の成果がでたプレーだった。そして結果的に、このトライがその後の試合展開に意味を持つことになった。

 後半26分、セコムも今年の新人CTB中洲晴陽(近畿大)がいい動きを見せてディフェンスを突破し、これまた今年の新人FB野口幹太(東海大)につないでトライ。ゴールも決まって22-17とワントライ差までヤクルトを追い詰めた。
 この試合セコムは中洲、野口の他にPR奥野翔太(帝京大)、飯田光紀(日大)の新人もスタメンに名を連ねた。

 ピアスHCは、「新人とか、ベテランは関係ない。いい動きをしている選手を使ってゆく。今日は新人もいい声もでていたので、楽しみ。」と言う。
 セコムのチーム力も確実に上がっている印象だ。

 しかしそれでも、セコムはなかなか敵陣でプレーできなかった。
「結局ゲインラインをコントロールできないと、結果がでない」とピアスHCが試合後にコメントしたように、スコアでは近づいたものの、その後は徐々にヤクルトのペースとなってゆく。

 ヤクルトは、31分にPGで25-17。34分にはハイパントを拾ったWTB沢村舜(日体大)が激走し、左隅にトライ、ゴールも決まって32-17とした。
 着実に点を重ね、やがてノーサイドのホイッスルが鳴る。終わってみれば、勝者の要所要所での強さ、上手さが印象に残った試合だった。
 これでヤクルトは春季交流戦トーナメント連覇、秋のリーグ戦も加えるといわば3連覇となった。

 こうして、トップイーストの春シーズンは幕を閉じた。これからはそれぞれのチームが秋のリーグ戦に備え、夏の強化シーズンに突入する。

 セコムもこの試合で敗れはしたものの、秋に向けてしっかりと手ごたえを感じていたようだ。
「キーになるのはセットプレー、コミュニケーションのエラー。今日の試合はこうした課題もわかって、得られたことは多い。今チームは新しいシステムに挑戦していて、まだ十分に理解できていないところもあるが、これから仕上げてゆく。秋の公式戦は面白いことになると思う」(ピアスHC)

 同じ日に横河電機グラウンド(東京・武蔵野市)では3位決定戦が開催された。
 横河武蔵野アトラスターズが昨年のリーグ戦で勝てなかった東京ガスを34-19で破っている。

 昨シーズンのBグループから昇格して勢いのある秋田ノーザンブレッツがここに加わる。
まさに実力拮抗の時代となったトップイーストAグループ。迎え撃つヤクルトにも無論油断はない。

「秋は他のチームがウチをターゲットにしてくるでしょう。夏の時期をいい形で過ごして、準備してゆきたい。」(高安監督)

「我々の取り組んでいることはリーグワンのスタンダード。いつリーグワンに上がれるチャンスが来るのかは判りませんが、いつでも上がれるようにリーグワンの基準のプレーができるよう、準備をしています」(高安監督)というように、その視線の先にはリーグワンを見据えている。

 リーグワンの基準のプレー。それは、群雄が割拠する戦国トップイーストで優勝を狙うための「必要条件」となってきているようだ。

若く勢いのあるFWを前面に押し出すアタックで王者を苦しめたセコム。セコムと言えばLO。LOからのオプションも豊富だ。藤井樹(いつき・27歳)は日大高/帝京大を経て2018年加入。(撮影/山形美弥子)
この日スターティングメンバーに4人のルーキーを配したセコム。新人2人が後半26分、5点差に詰める貴重な追加点を挙げた。CTB中洲晴陽(元関西リーグベスト15)の突破がFB野口幹太のトライを呼んだ。(撮影/山形美弥子)


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