【ラグリパWEST】第1号からレギュラーへの道。三木海芽 [慶應義塾大学/センター]
初めての高校から、レギュラーになる。そして、チームの勝利に貢献する。三木海芽(かいが)には思い描く近未来がある。
慶應の3年生。内側のセンター。出身高校は徳島の城東だ。
「母校からの入部は初めてと聞きました」
慶應は日本ラグビーのルーツ校。創部は1899年(明治32)。三木は123年の歴史で、たったひとりの栄誉を担う。
ここまで春の全6試合に先発した。「こっこう」と呼ばれる黒と黄のジャージーに袖を通す。昨秋の公式戦9試合では23人のメンバー入りすらない。3年目の本格化である。
三木は体の厚みをつけるパンプアップに成功した。胸囲について答える。
「5センチほど大きくなったかもしれません」
部で設定した目標は3センチである。OB監督の栗原徹は話す。
「ほかのチームと比べるとウチは体が薄い。選手権の負けパターンはスクラムで押され、フィジカルで負け、惜しかったね、と。それをなくそうとしています」
三木は強化点を理解して、ウエイトトレに取り組んだ。栗原は就任4年目に入った。現役時代は日本代表。バックスリーとしてキャップ27を得る。
栗原は三木の長所を挙げる。
「ディフェンスですね」
6月5日の天理戦では前半3分、ナイバルワガ セタの上半身にぶち当たる。ノックオンを誘った。167センチの三木との身長差は20センチ。臆せずにタックルに行く。
「いい面構えをしていますね」
当日、試合の撮影をした平本芳臣は言った。褐色に日焼けした顔。その双眸は輝き、口は一文字に引き結ばれる。ベテランのカメラマンをうならす容貌を持っている。
三木は前半で1年生の山本大悟と交替した。
「予定通りです」
栗原は説明する。この日は招待試合。天理親里ラグビー場であった。大阪の常翔学園出身の山本は「ご当地選手」でもある。外側のセンターは副将の鬼木崇。外せない。試合は19-36(前半12-14)で慶應が敗れた。
三木を慶應に誘ったのは栗原である。監督就任の3か月ほど前、城東の試合を見る。
「ひと目ぼれしました。選手に、監督に、チームに。ひたむきにプレーをしていました。それで、こういう入試の制度がありますよ、と話をさせてもらいました」
栗原は年末年始の全国大会のテレビ解説者として花園を訪れていた。
この98回大会(2018年度)、三木は2年生レギュラーだった。城東は2回戦敗退の記録が残る。八幡工に14-24。初戦は聖光学院(福島)に24-7だった。メンバー登録は23人。フルの30人には7人ほど足りなかった。
県立校の城東の創部は1949年(昭和24)。全国大会出場は15回。最高位は2回戦進出だ。8回ある。直近の101回大会では米子工に70-0。京都成章に7-39で敗れた。
その98回大会から監督に就任したのはOBの伊達圭太である。今年11月で34歳。出身大学は大阪体育。保健・体育の教員でもある。現役時代はセンターなどをこなした。
その伊達の指導と栗原をはじめとする部のサポートの下、三木はAO入試、いわゆる自己推薦で総合政策学部に現役合格した。
「テレビで見ている学校でした」
三木は笑う。寮とグラウンドのある日吉からキャンパスのある藤沢までは電車を乗り継いで1時間30分ほどかかる。
「少し疲れますが、単位は取れています」
勤勉な性格は勉学にも表れる。
講義のあとのラグビーは楽しい。
「高校の時は人数が少なく、仲はよかったですけど競争はありませんでした。今は100人以上が競争しています。その上で助け合う。そういう文化に触れられてよかったです」
慶應への道筋をつけた競技開始は小2。徳島ラグビースクールだった。父・宏司は経験者。貞光工(現つるぎ)のOBである。自分の名前の由来はよくは知らない。
「兄は風芽(ふうが)といいます」
2歳上の兄はプロップ。同じ学校から愛媛大に進んだ。海と風。徳島は青い太平洋、後背に緑の空気が流れる四国山地がある。自然に恵まれた名詞に、その芽吹き、成長が2つの名には託されている感じがしている。
「春はAチームで出させてもらって、うれしいです」
一定の満足感はあるが、先を見据える。
「課題はスキル。明治でも早稲田でも、パスをバンバン通してきます」
栗原の評価ポイントは防御と並び、「人を使える」。本人はそう考えない。
5月22日には明治に17-22、翌週には早稲田に21-38。名門の「早慶明」の枠組みの中では連敗した。春シーズンはここまで1勝4敗1分。ただ、一番大きな得失点は天理と早稲田戦の17。焦るほどの力の差はない。
「自分は対抗戦も選手権も出たことはありません。秋にはそれらに出られるように、そして勝つことに貢献したいです」
昨年の関東対抗戦は4位。58回目の大学選手権は8強で東海大に12-27で敗れた。
慶應の選手権制覇は3回。最後の36回大会から20年以上も頂点に立てていない。三木の活躍が「新しい血」となり、チームの刺激になれば、黒黄の関係者にとってはよろこばしいことに違いない。