海外 2022.05.27

松島幸太朗インタビューVol.2◎「2023年以降へ向け、日本ラグビーの環境整備を考えないと」

[ 福本美由紀 ]
松島幸太朗インタビューVol.2◎「2023年以降へ向け、日本ラグビーの環境整備を考えないと」
フランスでの体感を日本ラグビーの進化につなげたい。(©ASM Clermont Auvergne Rugby)

松島幸太朗インタビューVol.1はこちら▼
https://rugby-rp.com/2022/05/26/abroad/84385


 松島幸太朗がフランスでプレーしていた2年はコロナ禍という不透明な社会の状況に加えて、所属していたクレルモンにも転換期となった。
 前会長の急逝。新しい会長の就任。監督も代わるなど、いろんなことがあった。

——監督がフランク・アゼマからジョノ・ギブスになって変わったことはありましたか。
「戦術は大きく変わらない感じはしました。でも、やろうとしていることは違う。監督自身の性格も違います。ギブスはラグビー以外の時はおもしろい人だけど、練習中の彼の厳しさにミスを恐れて萎縮してしまう選手もいたかな。アゼマも厳しいけど、楽しくやっていく感じでした。練習にも多少ゆとりがあった。失敗しても、『次、次!』という感じでした」

 アゼマは昨年10月にトゥーロンの監督に就任。その効果が見えてきている。トップ14では6連勝中。最下位からプレーオフを狙える位置まで順位を上げた。
 チャレンジカップでは、イングランドの強豪サラセンズに完勝して決勝進出を決めた。

——アゼマの人柄とメソッドが、自信を失っていたトゥーロンの選手に合っていたということでしょうか。
「アゼマの『次へ、次へ』という性格の影響もあるでしょう。選手が、この人についていこうという気持ちになることが一番大切だと思う。選手としっかり話し、コミュニケーションをとることによって選手のモチベーションは変わる。そういう気持ちの変化はあるのではないでしょうか」

——アゼマは、松島選手と毎週個人面談をしていたと現地の報道で読みました。
「はい。最初のうちはチームに加わったばかりということもあり、個人面談というより、『私生活どう?』など簡単な話をしていました。英語も話してくれたので話しやすかったです」

——フランス独特の『試合中にピッチサイドで指示を出す監督』に違和感はありませんでしたか。
「あまりなかった。ただ、これがフレンチスタイルなんだな、という感じはしましたね」

——クレルモンにはSHモルガン・パラやSOカミーユ・ロペスというクレルモンの顔となっているベテラン選手もいて、若手もいる。その中で松島選手はどういう立ち位置ですか?
「僕はどのチームでもそんなに変わらない。とりあえずプレーをしていくっていう感じでしたね。試合中あまりにもミスが多いときは(指摘する言葉を)言うけど、(他に)話す人はたくさんいるので、円陣の中で毎日話したりはしない。大事な時に話すぐらいですね」

——アゼマにインタビューした時に「マツは無駄に話すことはない。だから彼が話すとみんなが耳を傾ける」と言っていました。
「ちゃんと聞いてくれているかどうかはわからないけど、的を射たことを言っていれば選手は聞いてくれる。的外れのことを言うと『また何か言ってる』と思われるだけ。この状況では何がいいアドバイスなのかということを自分でしっかり見極めるということも大事ですね」

——チームの柱になっているモルガン・パラは、今季でクレルモン13年目、4月13日のスタッド・フランセ戦でクレルモンのジャージーで300試合を達成しました。チーム内での彼の存在はどういうものですか。
「絶対的な存在。チームが悪い時、気持ちの問題や態度について何が良くて、何が悪いのか、毎日円陣でしっかり言っています。カミーユ・ロペスもそうです」

——世代交代も進んではいますが、いまもこの2人がチームの柱。その2人が今季でクレルモンを退団して、来季は他チームへ移籍する。チームが変わりますね。
「良くも悪くも2人に依存していたというのはあると思います。これからクレルモンが変わるには2人の移籍も必要だったのでは、と思います」

——今季のクレルモンは若手の成長が感じられました。20歳や18歳の選手が次々と出てきた。その中でもインパクトがあったのが、4月16日のチャンピオンズカップのレスター戦で先発出場していた18歳のSHバティスト・ジョノーでした。
「彼はすごい選手になると思う。自分の芯を持っているし、自分のやりたいことをしっかりフィールドで出すことができ、チームに勢いをつける素質がある。一味違う感じです。まだ小さいけど、デュポンみたいな感じで積極的にアタックし、ディフェンスもどんどんいく」

——クレルモンのファンも、彼がモルガン・パラの後継者になってくれると期待していますね。
「ケガをしているということもあったと思いますが、この2年間、パラが誰かに直接指導しているところを見たことがなかった。同じ左足が利き足というのもあるのかもしれないけど、初めてジョノーに教えているところを見た。期待しているんだなと感じました」

——ジョノーだけでなく、WTB/FBシェイク・チベルギアン(22歳)、WTBトマ・ロジエール(22歳)、FLリュカ・ドゥセーニュ(23歳)、LOチボー・ラナン(24歳)など、他にも若い選手がどんどん試合に出て評価を上げています。若手がこんなに試合に出られるのはどうしてですか。
「試合数が多い。また、ケガ人も増えた。そういう理由もあると思いますが、若い選手が起用され、彼らがそのチャンスを掴み取っている。自分が成長したことを練習から出しています」

——日本は大学ラグビーも盛んで、システムも違うから比べられませんが、若い時からプロのレベルの試合に出られるということは大きなチャンスですね。
「成長スピードが変わってくると思う。大学を出ているのと、ジョノーやチベルギアンのように18歳や20歳でトップ14というフィジカルの強いコンペティションに出るのでは全然違う(経験を得られる)と思います。レベルも違う。世界的なスーパースターと対戦することもあれば、一緒に試合に出ることもある」

——ご自身も桐蔭学園卒業後、南アフリカのシャークスへ行き、フランスのトゥールーズも経験した後、日本に帰り、再び海外に出ました。海外でプレーすることと日本でプレーすることの違いは?
「海外にはシンプルにプロと一緒に練習できる環境があり、学べる機会が圧倒的に多い。活躍していればプロのチームで一緒に練習できるようになる。(そのような環境があるから)ジョノーのように、若くてもしっかり結果を出していける。彼はプロの練習でも、SHだからといってパスマシンにならない。自分で仕掛けにいくし、判断し、空いているスペースにどんどんキックもする。本気で上を目指したい人にとっては、そういう環境がとても重要だと思います」

——日本代表のジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチがラグビーマガジン6月号のインタビューで、リーグワンを見ていて気になることとして、外国出身選手たちに隠れ、若い選手がなかなか試合に出られていない現状をあげていました。
「試合に出ていなければアピールの場がまったくなく、当然、日本代表に選ばれることもない。リーグワンも(当初は)プロ化を目指していたと思います。本気でそう考え、継続していきたいのであれば、試合に出られていない選手は、試合に出られるチームに移籍することができるようにした方がいいのでは、と思います。そうなるとチームの起用方針や、どういう選手をリクルートするのか、ということも大事になってきますね。若手育成を考えたリクルートが重要だと思う。もちろんスーパースターを獲ることはいい。学べる機会が与えられますから。ただ、学べたとしても試合で使えなければ、学ぶだけになってしまう。リーグワンと各チームがそういうことをしっかり考えていかないといけないですね。日本の若い選手にとって何がベストなのか、そして日本ラグビーにとって何が一番成長できるのか。そこを考えなければ。2023年以降は僕を含めて(現日本代表の)選手たちの年齢が高くなっていく。先をしっかり考えておかないと。危機感を持っています」

——今のリーグワンは2015年までのフランスの状態に似ているように思えます。
「協会はちゃんと考えないと。2023年以降が難しくなるような気もします」

 2010年代前半のトップ14には外国人のスター選手が溢れていた。フランスの若い選手たちはプレーする場が得られず、代表チームの選手層が薄くなった。結果、2015年大会は準々決勝でニュージーランドに歴史的大敗を喫した(13-62)。
 そこから協会、リーグ、クラブが若手の育成に力を入れ始め、現在のフランスラグビーの上昇につながっている。

——フランスにとって2023年大会は自国開催なのでもちろん力を入れていますが、バティスト・ジョノーのような20歳に満たない選手が次々と出てきているのを見ていると、次の2027年に向けても希望が感じられます。
「どのチームを見ても、力のある若手が出てきている。将来有望な選手が豊富な国だなと思います」

 才能あふれる選手が多くいるクレルモンという名門チームで15番のジャージーを着て、ハードな連戦を戦いながらも日本ラグビーの継続的な成長についても考えていた。松島幸太朗のフランスでの活躍に触発された日本の選手は少なくないだろう。
 彼の思いを、このインタビューを通して少しでも多くの人に伝えられたら、と思う。
(おわり)

※松島選手のインタビューはラグビーマガジン7月号にも掲載しています。


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