コラム 2022.05.05
【コラム】リーグワン生観戦で見られるもの

【コラム】リーグワン生観戦で見られるもの

[ 向 風見也 ]

 オーストラリア代表として幾多の修羅場を経験したSOは、5月1日、雨の降る江戸川陸上競技場で10番をつける。

 長短のキックを放ってスコアボードの揺れを最小化し、対するNTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安の防御のつながりが切れるや、一転、ナイフのパスを繰り出す。40―13で勝った。

 妙味があったのは、直接トライには繋がらなかった場面だ。

 15-13と2点のみリードしていた後半9分頃。自陣10メートルエリアで球をFW陣が接点を築くなか、フォーリーは前方、後方に首を振る。

 中央でもらった球を右隣のPRのオペティ・ヘルに預けると、さらに右へ回ってやはり後ろのメンバーに目を配る。右に攻めのラインを敷く。

 ヘルが持ち前の突進力で複数のタックラーの身体、視線を一点に集めると、フォーリーが接点からのパスへ駆け込む。

 ゴールラインと垂直なコースを走って3枚の守りを引き寄せ、外側へ回す。

 FBのゲラード・ファンデンヒーファー、CTBの立川理道が加速しながら短くつなぎ、WTBの根塚洸雅が豪快に駆け上がる。

 ここでは根塚のパスを相手がさらったものの、向こう約3分、敵陣に居座ることができた。果たして、20―13と点差を広げた。

 何より、フォーリーのスキルがチームという生命体の一部として活きた事実は消えない。

 試合後のミックスゾーン。殊勲の通称「ナード」は報道陣に「オツカレサマデース!」と朗らかに手を振っていた。

 ハードワーカーであり好ランナーの根塚は、その「ナード」の「繋がれる」さまに感嘆する。

「FWが行っている(ボールを持っている)時も、(その後ろで)ナードとコネクションしています。ナードは途端に言う(指示を出す)のではなく、早めにコミュニケーションをとっている。その分、どんどんいいプレーが生まれているんだろうなと感じます。ナードがいるとこっちも落ち着くというか…。フィールドにいてくれると、心強いです」

 今年発足のリーグワンは間もなくレギュラーシーズン最終節を迎え、月末には4強によるプレーオフに突入する。

 この先の戦いの入場券を手にしたファンは、その時々の大一番における「いい選手」を生で確認できる。それは酒を飲まずとも、大きな声を出さずとも得られる貴重な体験だ。

【筆者プロフィール】向 風見也( むかい ふみや )
1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、主にラグビーに関するリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「スポルティーバ」「スポーツナビ」「ラグビーリパブリック」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(共著/双葉社)。『サンウルブズの挑戦』(双葉社)。

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