旅するプロップ、宗像を愛す。パディー・ライアン[宗像サニックスブルース]は、こんな人。
チームのWEBサイトの選手紹介ページ、嫌いな食べ物の欄に「プロップなのでなんでも食べます」とある。
ラグビー初心者にも、プロップがどんなポジションか伝える回答。宗像サニックスブルースのパディー・ライアン(以下、パディー)は洒落ている。
190センチ、120キロの巨体。165センチの2番、宮﨑達也が横にいるときのスクラムを、「これまで経験してきたものと、まったく違う」と言い、「ヨガの練習をして、もっと体が曲がるようにしないといけない」と笑う。
「でも、宮﨑とのスクラムは楽しいよ。フッカーの中で、彼ほどスキルが高い選手を見たことはないから。キックもうまい。昔はスタンドオフをやっていたらしい」
2018年シーズンに宗像サニックスブルースに加入して今季が4シーズン目。その巨体を活かしてスクラム、ボールキャリーでチームに勢いを与える。
毎年コンスタントに試合出場を続け(昨季は全試合出場)、今季もレギュラーシーズンの5試合と順位決定戦の初戦に出場した。
活動継続検討、活動中止決定など、今季はプレーへの集中が難しい空気がブルースを覆った。
パディーはその中でも、いつもと変わらず楽しそうにプレーに集中した。
「毎週、試合までのルーティーンを繰り返し、週末の試合を楽しむ。日本でのプレーは本当に楽しい。そこに集中しています」
長いプロ選手生活の中で大切にしているのは、「良い準備をした。精一杯プレーしたと、(試合後に)自分に言えるかどうか」。
そんな毎週を淡々と繰り返す。
チームメートとの時間を心の底から楽しむ。日本のラグビーが好きなのは、仲間との時間を気に入っているからだ。
「今シーズンはスコッドの全員がプレーして、誰もがチームに貢献しているのがいい。特に(連勝した第8節、9節の)清水建設戦、中国電力戦は、わくわくした」
中国電力戦で、SO竹中太一がプレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたことを自分のことのように喜ぶ。
「彼がこのレベルでもやっていけることが証明された。嬉しいよ」
トップリーグのトライアウトに挑戦するも叶わず、それでも諦めずに夢を見続け、今季入団に漕ぎ着けた司令塔の喜びを思いやる。
パディーがチームメートのことを好きなのは、誰もがハードワーカーだと日常の中で知っているからだ。「(いい空気を作っている)コーチング、マネジメントスタッフの仕事は大きい」と話し、続ける。
「素晴らしいことに、若い選手たちには、振る舞いやラグビーに取り組む姿勢を言わなくていいんだ。みんなハードワークを勝手にやる」
チームの中に、背中で引っ張るリーダーたちが何人もいる。その存在も頼もしい。
自身も働き者だ。そして旅人。オフにはアメリカに渡り、メジャーリーグ・ラグビーのサンディエゴ・リージョンでプレーする。
その理由を「(ブルースの)プレシーズンのトレーニングは暑い中、よく走る。それを避けたくてね」とイタズラっぽく笑う。
「マサさん(松園正隆監督)も同じプロップだから、分かってくれるはず」
メジャーリーグ・ラグビーの魅力を「各チームが有名な都市にある。まるで映画の世界にいるみたい」と話す。
「日本は、ブルースでの時間、フィールドのクイックなラグビー、そしてオフフィールドで感じるこの国のカルチャーが大好きです」
奥さんも日本で仕事に就くほど、いまの生活が気に入っている。
「うちは妻とふたりだから気楽に人生を楽しんでいるよ」と肩の力が抜けている。
宗像にまだまだ住みたい。日本でもっとプレーしたい。「それが叶わないならアメリカかな」と言う。
「残りの試合、とにかくブルースで楽しむ。沈んでいても仕方ない」
周囲にも、笑顔でそう呼びかけてきた。
オーストラリア生まれの33歳。子どもの頃から同国代表、ワラビーズでプレーするのが夢だった。
願いが叶ったのは2012年11月10日。フランスとのテストマッチに後半26分から出場した。
「スコッドに呼ばれて1年ほど出番がなかったので感激しました。試合を控えた火曜日にメンバー入りが決まり、父に電話で報告しました。父はすぐに航空券の手配をして24時間のフライトだったそうです。試合がおこなわれる土曜日にはパリにいました」
豊富な経験値を持つ。若手へのアドバイスを惜しまない。
「アドバイスをするというより、話すのが好き。僕も含め、育った場所、通っていた大学、プレーしてきたチームなど、みんな違う。それぞれの経験をシェアするのが楽しい」
スクラムについて話す。
「大切なのは、うしろの押しを(前へ出る力として)伝えること。僕は大きい。寺脇、ショウゴ(村上)、ダニエル(申)、ヤス(猿渡)と、みんな形(体型)は違うけど、ブルースのタイトヘッドプロップが大事にしているのは、それ」
そこを実践しているから今年のスクラムは安定していると胸を張る。
レギュラーシーズンを終えた時点で決まっていた未来は、順位決定戦の2試合を戦うことだけだった。「もし、もうここでプレーできなくなるとしても宗像が好きだ」と話した。
「ここからは僕も仲間もお互いに、チームメートのために戦う」
それは、パディーのいつもの姿でもある。