国内 2022.05.05

豪快ランの木田晴斗は「負けず嫌いなところはある。昔から」。スピアーズ新人躍動の裏側。

[ 向 風見也 ]
豪快ランの木田晴斗は「負けず嫌いなところはある。昔から」。スピアーズ新人躍動の裏側。
シャイニングアークス戦で、オフロードでつなごうとするスピアーズの木田晴斗(撮影:大泉謙也)


 人と人が競争する環境は、人が作る。そう再認識させるスポーツクラブのひとつに、クボタスピアーズ船橋・東京ベイがある。

 今年1月からのジャパンラグビーリーグワン1部にあって、すでにプレーオフ行きを決めている。5月1日は本拠地の江戸川区陸上競技場で、順位で7つ下回っていたNTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安と第15節をおこなう。

 雨に見舞われたこの午後、前半は8-13とリードされる。チャンスでの反則、相手のモールへの防御、急遽向こうのSOに入ったグレイグ・レイドローのキックに苦しんだ。

 しかし、CTBの立川理道主将は「ボールを手離してからディフェンスができたのは自信になった」。前節までの2試合でそれぞれ41、32失点を喫していたが、今回は防御を安定させられた。後半を無失点で切り抜け、40-13と12チーム中2位を保持した。

「ここ数試合、ひとりひとりの(立ち位置の)幅、2人でコリジョンをすることという基本的なところがうまくできていなかった。(この日に向けては)もともとあったプランのなかで、さらによくしていこう(精度を高めよう)としました。このコンディション(悪天候)で相手もボールを回すのは難しかったと思いますが、(自軍の防御自体を)振り返ってもよかったかなと」

 殊勲者はバーナード・フォーリー。オーストラリア代表71キャップのSOの32歳は、長短のキックとパスを使い分け、仲間が濁流にのみ込まれるのを避けた。

 その流れで光ったのが、入部1、2年目の有望株たちだ。

 2022年度入部のハラトア・ヴァイレアは、アウトサイドCTBとして初先発。好守で強靭さを披露した。

 2021年度入部ですっかり主力WTBとなった根塚洸雅も、わずかな隙間を駆け抜ける走り、相手のランコースを消す防御で存在感を発揮する。

 さらに目立ったのは木田晴斗。ヴァイレアと同期の23歳で、身長176センチ、体重90キロと強靭さを売りにする。この日はWTBとして、2戦連続での先発出場となった。

「(試合に)出たいという気持ちはもちろんあった。自分と向き合って、(願い)それが形として実ったのはよかったです」

 シャイニングアークス戦では、チーム最初のトライを決める。0-10で迎えた前半24分、敵陣ゴール前左中間でヴァイレアが抜け出したのをサポート。パスをもらい、フィニッシュした。

 続く33分頃には、持ち味の豪快さをアピールする。自陣10メートル付近中央で捕球するや、チェイスラインに入ったタックラーの手を振りほどく。壁を破る。敵陣22メートルエリアまで到達。味方の連続攻撃で、シャイニングアークスの反則を引き出した。

 以後もあちこちに顔を出す。左タッチラインの外へ出そうな相手のペナルティキックを手ではじき、自軍ボールを確保する…。フォーリー、立川とつないだ球を受け、左大外にいたFLのピーター“ラピース”・ラブスカフニへバックフリックパスを繰り出す…。

 貪欲さを匂わせるその働きに、自らのバックボーンをにじませるような。

 関西大倉中、高では全国的な実績を作れなかったものの、伝手で事実上の入部テストを受けた立命大で1年時から主力入り。まもなく期待の若手からなるジュニア・ジャパンに抜擢され、スピアーズでも同期で最初の公式戦出場を果たしていた。

「負けず嫌いなところがあると思います。昔から。試合に出られない状態というのは、自分のなかでは一番、心地よくない。(出番を)ものにするためなら、自分から他の選手よりも積極的に取り組んでいって…というところです」

 木田とともにフル出場した根塚は、ミックスゾーンでこのように述べた。

「今年、入ってきたメンバーは大学の頃から(年代別代表で)仲が良かった。(チームの動きを)教えられるようにプレーしたい…。そう刺激になっています。木田はフィジカルが強く、思い切りのいい選手。同じチームのライバルでもあるので、彼を見習って切磋琢磨していきたいです」
 
 近年のスピアーズで新人選手が躍動する裏には、リクルーティンググループの献身がある。「採用の力です」とは、2012年度入部の立川主将である。

「いい選手が来るようなチームになってきました。日々の練習のレベルも上がり、いままでいる選手の気が引き締まるいいサイクルにあります」

 競争力を支えるグループのひとりは、元同大主将の前川泰慶さん。各大学の練習場、試合会場へ足しげく通う姿で知られる。これと見込んだ選手を練習見学へ招き、かねてより評判の明るい雰囲気、既存部員の朗らかな人柄に触れさせる。

 期待されて入団する最近のルーキーたちが「チームの雰囲気がよかったから」「これから強くなるチームだから」と入部理由を語り、プレーオフ行きを決めた後の公式戦でジャージィをつかむのは自然な流れか。チームは昨季、前身のトップリーグで初の4強入りを決めている。ただしいまの若手には、それ以前に進路を決めた者も少なくない。

 各大学の目玉選手を招き入れるスピアーズ採用陣の手腕には、「目利き」の評価がついて回りそう。もっとも前川さんは、「木田を採ったことで目利きと言われても…。彼は誰がどう見たってすごいじゃないですか」と謙遜する。

 ちなみに前川さんが木田を見つけたのは、母校の同大と立命大が当時の1年生同士でおこなった練習試合でのこと。同大にスポーツ推薦で入った有名選手をチェックしに行ったつもりが、ラインブレイクを連発する立命大の青年に目を奪われた。その人、木田が秋の公式戦で多くの関係者を驚かせるより、数か月前の話である。

 大学生選手がリーグワンの採用担当者と直に接するのは、3年目以降のこととされる。そうはいっても、自分がどのチームに先に注目してもらえたかは肌感覚でわかるのだろう。木田は、スピアーズ選択のわけをこう説いた。

「1回、練習の雰囲気を見に行ったら、フレンドリーな選手が多くて。あとは、自分のことをチームに誘ってくれたのが一番、早かったというのも、ちょっと、(決断の背景には)あったかなと思います」
 
 ちなみにクラブのモットーは、「自分たちのコントロールできることに集中する」。前川さん自身も、その哲学を礎に置いているような。

 いわば「本命」と見込んで熱烈に誘っていたある選手が、国内有数の選手層を誇るクラブへ入った時のこと。雑談の延長でその話題に触れ、「その選手を振り向かせられない、自分たちが情けないのです」。このような趣旨を、実際はよりフランクに述べた。

 人と人が競争する環境は、人が作る。

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