コラム
2022.04.28
【コラム】99回目の定期戦。ジャージーに滲むチームの色。
「学生が監督に選手交代を求めるなんて」。客席で隣にいた人が驚く。「珍しいですね」。そう応じた後で、自分の学生時代の光景が脳裏によみがえった。
京大のBチームの試合、それも相手は東大ではなかったか。僅差でリードしていた後半、監督がベンチの1回生に出場を指示した。
はにかみ笑いを浮かべ、ルーキーは答えた。
「今日はやめときます」。ご丁寧に腕でバツの字までつくったものだ。目を丸くする監督をよそに、ノーサイドの笛まで静かに試合を見守っていた。
試合後、本人に理由を尋ねた。「あの僅差なら力の劣る自分が入るより、先発の選手が出続けた方がいい」。そんな説明だった。確かにチームは逃げ切りに成功した。ただ、監督の指示を断ってベンチに座り続けるというのはなかなか目にできないシーンである。
選手の「顔」や「声」が良く見える。20年前も今も、京大のカラーは健在だった。
学生が起用法にまで具申する場合、受け止める監督の器も問われる。メンツを潰されたと叱責したり、意地になって反発したりする指導者もいる。
京大の溝口正人監督は、選手が希望していたロックの投入を指示、局面の打開につながった。「出場拒否」に遭った指揮官、市口順亮氏は新日鉄釜石ラグビー部の監督・部長として「V7」の礎を築いた大物。しかし、声を荒げることもなく、1回生の意向を受け入れていた。