国内 2022.04.14

東西強豪経て移籍の児玉健太郎、グリーンロケッツは「負けているけど負け慣れてない」。

[ 向 風見也 ]
東西強豪経て移籍の児玉健太郎、グリーンロケッツは「負けているけど負け慣れてない」。
NECグリーンロケッツ東葛の児玉健太郎。3月のリコーブラックラムズ東京戦から(撮影:松本かおり)


 リーグワン・ディビジョン1で第12節まで実戦未勝利。ただ、チームのレベルが上がっているのは間違いない。NECグリーンロケッツ東葛の児玉健太郎は、このように話す。

「試合メンバーとノンメンバーとの練習は毎週、毎週、強度も質も上がっている。手ごたえはあります」

 チームは昨季も苦しんでいた。前身のトップリーグでレギュラーシーズン全敗。リーグワン参戦に向け、指導陣の刷新、大量補強を断行したばかりだ。

 ウェールズ代表LOのジェイク・ボールをはじめとした新外国人は現時点で8名、在籍する。2019年のワールドカップ日本大会時の日本代表メンバーも2人、加わり、なかでもWTBが本職のレメキ ロマノ ラヴァはSO、CTBと複数の位置を担当。副将やゲーム主将も任される。

 新天地で輝く隊列には、児玉も含まれる。身長183センチ、体重90キロ。もともとWTBとして空中戦の強さ、キック力を売りにしてきたが、今季はアウトサイドCTBとして出番を増やす。3戦目の出場となった第5節以降、計5試合で13番をつける。

 守っては鋭い出足のタックルを放ち、攻めては大きなストライドの走りで計2トライをマークしている。

「学ぶことが多いです。もっと周りが見えるようになっていければ、思い切りのよさも出てくると思います」

 配置転換に活路を見出せたのは、自らの積極性ゆえだ。所属していた神戸製鋼(現・コベルコ神戸スティーラーズ)で激しいサバイバルレースに挑むなか、新境地を開いたという。

「WTB一本だとスタメンか、応援(ベンチ外)になる。自分じゃない選手がリザーブ(ベンチ)に入る時に『彼は他のポジションもカバーできるから』と説明されることが何度かあって。そこで『じゃあ、俺もそこをカバーするよ』と、CTBやFBもやるようになったんです。グリーンロケッツでも、各ポジションにいい選手がいる。チームの都合に合わせて(自分を)使ってくれたらと思って、最初のミーティングで『CTBもできるよ』とは伝えていました。そしたら、CTBで出るように」

 鞘ヶ谷ラグビースクール、小倉高、慶大を経て2014年からプロになった。

 最初は強豪のパナソニック(現・埼玉パナソニックワイルドナイツ)と契約。現在も指揮を執るロビー・ディーンズ監督に、プレー中のコミュニケーションを意識するよう説かれた。

 教えが花開いたのは2年目のことだ。同じラグビースクールと学校を卒業した山田章仁(現・NTTコミュニケーションズシャイニングアークス東京ベイ浦安)がけがで戦列を離れている間、先発のWTBに抜擢される。トップリーグの優勝を味わい、翌年には日本代表となった。

 2018年度に神戸製鋼へ移ると、名手の姿に感銘を受けた。元ニュージーランド代表SOのダン・カーターは、既にベテランの域に達していたのに児玉いわく「すごく早くにグラウンドに来てストレッチ、準備を」。全体練習の後はゴールキックのセッションを欠かさずにおこない、時にはランチタイム返上でポールと向き合っていた。児玉は証言する。

「納得がいかなければ、サンドイッチを食べながら蹴っていました」

 パナソニック時代には、オーストラリア代表の司令塔だったベリック・バーンズとも一緒にプレーしている。貴重な経験から、普遍に気づいた。

「ひとりでチームを変えられるような人って、いるんだな。一番、すごい人が、一番、頑張っているって、一番、影響を与えます」

 ふたつのチームでは、自身が加わったタイミングで新しいボスが就任していた。

 神戸製鋼で共に働いたのは、元ニュージーランド代表アシスタントコーチのウェイン・スミス総監督。カーターの活躍と相まって、就任初年度に15季ぶりのトップリーグ制覇を果たしている。

 だから昨季限りでの移籍を検討した際も、児玉はグリーンロケッツでの「スタートアップ」へ興味を保ったわけだ。

 話をした3月上旬は、ディレクター・オブ・ラグビーのマイケル・チェイカ氏の合流を間近に控えていたころ。これまで、世界的な名士が組織に与える影響の大きさも肌で感じてきた。そのため元オーストラリア代表ヘッドコーチのチェイカ氏の合流を、こう心待ちにしていた。

「現場にいない時から、皆が使うメッセージ(のツール)で皆がファイトしたことをほめてくれている」

 ロバート・テイラー新ヘッドコーチの態度も、好意的に捉えている。

「例えば、ぎりぎり勝てそうで勝てなかった試合後のロッカー。怒り狂ってもおかしくないところで、『もうちょっとで勝てたなぁ』『もう、ほとんど勝ちに触っていた』と。ペットボトルをテーブルに打ち付けているんですけど、ガンガンと強めにやるわけではない。その、悔しさの表現の仕方がポジティブというか。負けてコーチ陣がヒステリックになると、選手もプレッシャーも感じて、人によってはプレーが委縮して、負のサイクルに陥ることもあるじゃないですか。でも、(いまの首脳陣は)僕たちをポジティブでいさせてくれるコメント、ミーティングをしてくれている」

 今回、関東地区に引っ越してきてからは、フランス人パートナーと暮らす。お相手は家族そろってラグビーファンのようだ。公私ともに充実の30歳は、「とにかく、まずは1勝。1勝して、勝てるだけ勝ちたいですね」と誓う。

「負けているけど、負け慣れてないし、毎週、本当に勝つマインドセットを持って試合に入れている」

PICK UP