国内 2022.04.04

地上戦マスターが証言。スピアーズが示すがまんと競争。

[ 向 風見也 ]
地上戦マスターが証言。スピアーズが示すがまんと競争。
ハードワークが光る末永健雄(写真提供:クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)


 クボタスピアーズ船橋・東京ベイの末永健雄は、日本代表の主将と定位置を争う。自身の代表入りへの思いを聞かれれば、同じオープンサイドFLのピーター“ラピース”・ラブスカフニを意識して言う。

「チームメイトにラピースがいるなか、まずはチームで活躍する。自分がやるべきことをやる。それで(代表に)選ばれたら、そこでベストを尽くす…というふうに考えています。入りたいと言って、入れるものではないです」

 身長178センチ、体重98キロの27歳。地上戦でタフに働く。3月27日、新潟市陸上競技場でのリーグワン・ディビジョン1の第11節では、12チーム中2位のチームで先発の7番を託される。ラブスカフニは離脱中である。

 この日のスピアーズは、今季限りで活動を見直すNTTドコモレッドハリケーンズ大阪を34-3で下した。序盤こそ敵陣ゴール前でのチャンスをミスで逃したものの、終始、エリアを取り続けた。今季9勝目である。

 渋いハイライトは試合中盤にあった。

 8-0とわずかにリードして迎えた前半27分頃。スピアーズは、レッドハリケーンズのカウンターを食らう。自陣22メートル線エリアまで攻め込まれる。ただし、得点は与えなかった。

 右中間で迎えた5フェーズ目では、199センチのデーヴィッド・ブルブリング、205センチのルアン・ボタという大型両LOがチョークタックル。迫るランナーをつかみ上げる。以後のフェーズでは末永が接点の球へ絡み、攻めのテンポを鈍らせる。

 向こうの援護が速い際はあえて仕掛けず、堅陣を敷き、次の局面に備える。左中間での12フェーズ目では、末永がロータックルを決めてすぐに起立。右側の穴を埋める。

 約2分間、計14フェーズにわたるがまんの時間帯。止めを刺したのも、末永だった。

 まずは自陣ゴール前右で、日本代表でもあるNO8のファウルア・マキシがタックル。右タッチライン側から中央方向へ、強烈に打ち込む。すると末永は、倒れた走者の手元へ吸い付く。球をもぎ取る。ターンオーバー!

 戦前に言っていた。

「個人的には身体の状態はすごくよくて、運動量という意味ではよく動けていると感じます。ただ、ラック(ボール保持者が倒れている接点)周りでのプレーの精度を上げたい。具体的に言うと、タックルにはよく行けていますが、ブレイクダウン(接点)の2人目の仕事――ジャッカル――はあまり出せていない。(次戦では)それを、出していきたい」

 有言実行だった。

 この日最大級のピンチを脱したスピアーズは、その直後にもハーフ線付近で守勢に回った。それでも、乱れたパスを拾う走者へマキシがタックル。並走した末永が、またもジャッカルを繰り出す。攻守逆転を決める。

 力強い選手は相手を羽交い絞めにし、しぶとい選手は地を這う。末永らFW陣は、各自の特性を組織防御に還元している。接点周りでのプレーを教えるアランド・ソアカイ アシスタントコーチは、こう述べていた。

練習を見るアランド・ソアカイ アシスタントコーチ(写真提供:クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)

「我々はディフェンスにプライドを持っている。原則、接点には2人が入る。選手個々の強みは把握しています。ボタ、ブルブリング、(FLの)トゥパ フィナウはチョークタックルがうまい。それらの選手の特性をシステムとマッチさせ、(試合を)進めています。グループでディフェンスを楽しんでいます。ボールを持ってない時もアタックする…。そのマインドで、ボールを取り返します」

 今季はラブスカフニ以外にも、FW陣の一時離脱を相次ぎ受け入れている。それでも代役の奮闘を促し、星取表の乱れを防がんとしている。CTBの立川理道主将いわく「日々の競争」が激しいゆえに、その構図が保たれる。

 平時は2016年に就任のフラン・ルディケ ヘッドコーチが、控え組のプレーのフィードバックと士気高揚に注力。立川が喜ぶ「競争」の裏には、首脳陣の心配りがあるとわかる。

 ソアカイは2011年にスピアーズ入り。15年にプレイングコーチとなるまでの間は、下部リーグにあたるトップイーストでのプレーも経験した。2021年のトップリーグ(当時の国内最高峰)で初めて4強入りを果たすまでの、その過程を知る。

 互いが協力してチーム力を高める現状について、こう続ける。

「私はスピアーズではタフな時期も、エキサイティングな時期も経験しました。そんななかで私個人が思うのは、スピアーズの強みは人間、人材にあるということです。特に直近の3年間は、(個々が)成長し続けるマインドを強調しています。選手だけではなく、コーチも一緒になって『ラブ&ケア』のようなことを意識してきました」

 末永が入ったのは2017年。門を叩くやラブスカフニとの競争に参加し、「入団した時から競争はありました。僕も同じポジションの選手とバチバチやり合っていた。それが文化になって、だんだん皆で成長してきた」。笑いながら続けるのは、首脳陣への感謝の念だ。

「コーチ陣が『助け合って一番を取ろう』という共通認識を皆に持たせてくれて、モチベーションを高く保てているのが大きいと思います」

 4月9日、横浜キヤノンイーグルスとの第12節を大阪・万博記念競技場でおこなう。2月6日の同カードは50-21で制しているが、スピアーズの隊列は当時と異なりそうだ。何よりあれ以降のイーグルスは、前年度の上位陣を下すなどして現在4位と好調を維持している。

 当日は、ソアカイの言う「人間、人材」の底力が問われそうだ。

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