充実ぶりを結果に繋げるには。東福岡の石原幹士は「焦らず、いつも通り」。
ハングリーでいる。東福岡高ラグビー部の最上級生となる石原幹士は、王座にたどり着くためのキーワードを示す。
「チームの総合力を上げないと。満足した時点で終わりなので、もっと貪欲にいきたい」
先の年末年始、東大阪市花園ラグビー場での全国高校ラグビー大会に出た。春の全国選抜大会を制していたチームは、優勝候補の最右翼として伝えられていた。本番でも、1対1での強靭さと大胆な展開で光った。
しかし、1月5日の準決勝で敗れてしまう。開始5分で東海大大阪仰星高を10-0とリードしながら、続く得点機はミスで逸する。やがて、主導権を失う。前半終了間際に逆転されると、後半は鋭くなった相手防御の出足に苦しむ。22-42。
当時2年生FBとして先制トライを決めた石原は、「うまく、言えないんですけど…」と当時を述懐する。
「昨年度は周りからも優勝するだろうと言われているなか、集中できなかったというか…」
3月28日、埼玉は熊谷ラグビー場の取材エリア。最後の選抜大会の準々決勝で中部大春日丘高を54-5で制したのち、改めて「(表現は)難しいっすね…」。今年は、いかに好意的に報じられても油断はすまい。その意をにじませた。
「優勝すると言われたのに優勝できなかったことは、僕の人生のなかでも(大きな)経験で…。今年はメディア、関係なく、仕上げていきたいです。1戦、1戦、目の前の試合に勝っていくだけだと思います」
この日の石原は、走りと声でチームスタイルを支える。
攻めてはタックラーをかわす走りで、通算2トライを挙げる。人員が入れ替わっても変わらぬスタイルを表現できるわけを聞かれれば、クラブの「文化」を静かに誇る。
「先輩方が引退しても胸を貸してくれて、練習に付き合ってくださっているのがいい文化になっていると思います」
守っては前方へ事細かに指示。キック処理時の捕球役と援護役の役割分担も、スムーズにおこなえた。
「FBは一番、(全体が)見えているので、指示を出し続けないとだめ。意識をするというより、当たり前のことだと思っています」
本人がこう話す傍ら、藤田雄一郎監督はほめる。
「石原の声は、僕が聞いていても安心できる。(周りが)石原の声を聞いてその通りにプレーしたら、いいジャッジになっている」
花園で5大会ぶり7度目の日本一を逃した際、藤田監督は「このチームですら、(準決勝の)壁を乗り越えさせてあげられない…。自分が監督でいいのかな」と吐露した。
つい進退についてほのめかすほどの落ち込みようで、春になっても当時のショックは「まだ、乗り越えてないです」。いま指揮を執っている理由のひとつは、「逃げちゃだめだ、この試合でたまたま悪かっただけだから」という周囲の励ましだ。
捲土重来。新チーム始動時は、防御ばかりを練習した。一戦必勝のトーナメントを首尾よく制するためだ。
「大会方式は変えられない。では、戦い方を変えていかなきゃいけない。0-0なら負けないということに着目しました。新人戦の時期ならアタック重視で練習した方が皆も楽しいですが、あえて嫌なことをしよう、と。ただ、いまの段階では皆それを楽しんでくれている」
スタッフが戦略上の見直しを図るなか、プレーヤーの石原は心構えを再点検している。
「昨年度を経験しているメンバーが焦ったら、チームは機能しない。焦らず、いつも通り。特別なことではなく、練習していることをやり切るだけです」
まずは31日、報徳学園との選抜大会決勝に挑む。
*2022/3/29 22:04 掲載の写真に誤りがありましたので、お詫びして訂正させていただきます。石原選手およびご家族、チーム関係者の皆様、大変申し訳ございませんでした。