【ラグリパWest】唯一無二の宝物。大谷優希 [大阪府立八尾高校]
3月17日は大阪の府立高校の合格発表だった。
旧制中学の流れをくむ八尾(やお)も例外ではない。創立は1895年(明治28)。その伝統校にも合格番号が貼られた白いボードが並ぶ。区切りは50。密を避けた中、歓声とため息が入り混じる。
その横にある土のグラウンドでは14人が楕円球を追っていた。合同チーム。八尾、布施、みどり清朋、花園、清水谷、枚岡樟風(ひらおかしょうふう)の6校から成る。
八尾からたったひとりで参加しているのは大谷優希。新2年生である。
「ラグビーは楽しいです。抜けた時は特に楽しいです。やってやった、という気持ちになります」
色白。切れ長の目元は下がる。
八尾は一昨年秋の全国大会予選後、引退や退部で部員が0になった。創部は府内で3番目に古い1928年(昭和3)。6年前にできた天王寺、その1年あとになる北野に次ぐ。全国大会出場こそないものの、90年を超えるチームにも受験難や少子化が直撃する。府立の普通科校にはスポーツ推薦はない。
そのピンチにラグビー部OB会、「かわちのラガー」が立ち上がる。入学式に向け、500人ほどで構成された組織は、勧誘のポスターやクラブ説明会で使う動画を自前で作成した。大学生の若手OBたちは校内で新入生に声をかけ、タッチフットに誘い込んだ。
その体験を通じて手を挙げた唯一の1年生が大谷だった。出身中学は東大阪の英田(あかだ)。花園ラグビー場に一番近い中学で、元木由紀雄や坪井章らを輩出した。元木は京産大のGMでセンターとして日本代表キャップ79を持つ。坪井は近鉄ライナーズ(現・花園)の元監督である。
ただ、大谷は初心者だった。英田では卓球をやっていた。
「中学の時はまだ体が小さく、危ないと思いました。でも、ラグビー自体には昔から興味がありました。だから、この機会にやってみようと思いました」
今は171センチ、54キロの体である。
OB会は最初の公約通り、ジャージーや短パン、ヘッドギアなど練習必需品を贈呈した。
「めちゃくちゃ助かっています。普通は買わなければいけないのにそろえてもらえました」
OB会は日々のプロテインも支給している。大谷が払い込む部費はない。
「OBからしたら宝物やと思います」
顧問で保健・体育教員の中出智之は言う。昨年11月、OB戦があった。
「年配の方々がタッチラインに一列に並んで、『大谷、頑張れー』と応援していました」
50歳の中出にとって感動的な光景だった。