【ラグリパWest】唯一無二の宝物。大谷優希 [大阪府立八尾高校]
大谷は中出とマンツーマンでトレーニングに励む。週2回は合同練習がない。
「先生と一緒に筋トレをしたり、柔道場でタックルをしたりします」
大谷の最高キロ数はベンチプレス55。スクワット85。1年弱で前者は35、後者は50ほど上昇させた。
大谷はまだ公式戦には出たことがない。入学後に府総体(春季大会)があったが、大阪は安全性の面から新入生の起用を禁じている。秋の全国大会予選はリザーブ。合同チームは上宮太子と桃山学院を26−17、27−7と破る。4強戦は0−124と大敗。相手は6回目の日本一を勝ち取る東海大大阪仰星だった。
2か月前、73回目の近畿大会予選(新人戦)はコロナ罹患者が出て棄権した。来月4月から始まる府総体は10人制で出場する。
「もし、出してもらえたら、チームが勝てるように頑張ってタックルするつもりです」
大谷は力を込める。
ポジションは初心者の定位置、ウイングからロックに移った。徐々にコンタクトに対する慣れ、そして自信が生まれている。自宅からは自転車通学。片道30分をかける。その往復もトレーニングになる。
その府総体と並行して、八尾では入学式を迎える。淡いピンクの桜花の中、7クラス、300人弱の新入生がやって来る。共学のため、男子はその半分ほど。ラグビー部にとっては試合の勝ち負けより、その誘い方がチームの浮沈を握る。入部者に対して、OB会は大谷と同じ援助をするつもりだ。
「僕ひとりでも勧誘します。通りかかる子に声をかけます。14人を集めたいです。目標は八尾として単独チームで出ることです」
大谷にとって合同チームは心地いい。
「でも、ひとりはさみしいです。パスの練習ができません」
受け手が常にいないことは孤独だ。野球のキャッチボールと同じ。ボールの受け渡し、パスはラグビーの基本である。
同時に、仲間の大切さを学び、日々を過ごしていくことは将来につながる。
「家を建てることに興味があって、建築系に進みたいなあと考えています」
大人数で作り上げる大建築に関わりたい。これまで訪れた姫路城は白い美しさ、清水寺は舞台の高さに圧倒された。その夢のためにもラグビーは役に立つ。
この合格発表の日、ひとりのOBがコンクリートの段に座り、黙って練習を見ていた。平日の木曜。勤め人ではない。年を重ねた人であろう。帰った後には麦茶とスポーツドリンクのケースが残されていた。
濃緑×白の段柄ジャージーの復活のため、唯一現役の大谷を中心に、チームにつながる者は力を尽くしたい。また来る、大阪ならぬ「八尾春の陣」である。