「信じてください」。ロスタイムに2度の映像判定。その時、両軍選手は?
人は憎まない。ホストのリコーブラックラムズ東京もビジターのNECグリーンロケッツ東葛も、疑念の矛先にはレフリーを置いていない。各種プレーに関する判定結果への受け止めがさまざまである旨を、それぞれの立場で口にするだけだ。
例えば、敗れたグリーンロケッツでSOとゲーム主将を務めたレメキ ロマノ ラヴァはこの調子である。
「うちはボールを動かしたかったけど、(試合中は)ストップとスタートが多く、スムーズにはいってない。でも、それはプレーヤーたちではコントロールできない状況なので」
3月6日、東京の秩父宮ラグビー場。両軍によりリーグワン・ディビジョン1の第8節があり、後半ロスタイムに2度の映像判定が用いられた。いずれも、3点差を追うグリーンロケッツがトライラインに迫ったシーンのことだ。
ひとつめは、ゴールライン左隅へWTBの宮島裕之が飛び込んだシーン。ここではグラウンディングする前に、ブラックラムズのSOのアイザック・ルーカスのタックルでタッチラインの外へ身体をつけられていると判定。得点は認められず、その前にブラックラムズが反則を犯した地点でプレーが再開された。
ふたつめは、事実上のラストワンプレーで起きた。
ゴールポストの前でラックを連取し、最後はLOのジェイク・ボールがもみくちゃにされながらボールを地面に置く。楕円球がゴールラインより向こう側にあればトライで、そうでなければ別な結末となる。
判定の正確性を保つべく、オーロラビジョンには何度もリプレーの動画が流れた。その間は両軍の戦士も、1,903名のファンも結果待ちの状態となる。
マッチオフィシャルの関谷惇大氏が、確認を終える。アシスタントレフリーと意見を共有。まもなく、両軍のゲーム主将のもとへ向かう。
ブラックラムズの松橋周平ゲーム主将は述懐する。
「その(説明を受ける)前に、チームメイトから『(レフリーに)プレッシャーをかけに行け』と言われていて…。僕は、レフリーの判断に任せる。ただ、皆、かなり興奮していました」
判定の末、ノートライとなった。ボールがいったんタックルされて倒れたのち、腕を伸ばしてグラウンディングを試みた、とジャッジされたのだろう。その場合は、ダブルムーブメントという反則を取られる。
グラウンディングを試みていたボールは、ショックを隠せなかった。
「トライしていました。信じてください。ボールはラインの上にあった。ダブルムーブメントと判定を受けましたが…。ご自身でも、見返してみてください」
ボールの手元に圧をかけていたのは、対するブラックラムズのLO、タラウ・ファカタヴァである。当時の様子を聞かれ、笑った。
「全然、覚えてないです」
笛に偏りはなかったのだろう。それは、対するブラックラムズの松橋が「いろいろな外的要因」の存在を認めたことからも明らかだ。松橋は、合計88分間の激闘をこう振り返った。
「なんでこういう反則が起きるんだろう、なんで取ってくれないんだろう…というシーンはあったのですが、それはコントロールできない。次の試合では、僕らがドミネートするだけの(微妙な判定に持ち込まれないだけの)強さを見せないといけない」
かような事実を踏まえて協調されるべきは、両軍ともレフリングとは無関係の領域で反省点を見出していたことだ。
グリーンロケッツのSHで途中出場の田中史朗は、最後の攻撃局面からさらなる伸びしろを抽出。味方の奮闘を讃える流れで、このように述べた。
「たぶん、外(タッチライン側)にトライチャンスがあったと思うのですが、BKからのコールが少なかったり、タイミングが合わなかったりで、そこ(空いたスペース)へパスを放てなかった部分があります。ただ、FWがハードワークしてトライまでのチャンスを作ってくれたことには誇りに思います」
かたやブラックラムズも、多くの得点機を逃していた。
SOのアイザック・ルーカスが軸となって複層的な攻撃システムを機能させるも、抜け出した走者が孤立して球に絡まれたり、パスの受け渡しで呼吸が合わなかったり。前半を7-15とビハインドで終えていた。
終盤こそFBのメイン平のキックカウンター、ペナルティキックからの速攻で向こうの守りの隙を突いたが、松橋はこうだ。
「ラインブレイクが多かったのはアイザック・ルーカス選手だったと思いますが、それに全員がもっと速く反応して、常に(ボールを)もらえる位置にいるようにしないといけない。リアクション、精度の部分はもっと改善していきたいです」
後半21分に勝ち越しトライを挙げたWTBのロトアヘア アマナキ大洋は、さらに直截に言った。
「いっぱいあったスペースでチャンスを作ることができなくて。もしそこでうまくいけていれば、余裕な試合だったと思っています」
複層的な要因で出来上がった接戦は、両軍に確たる学びを与えた。勝ったピーター・ヒューワット ヘッドコーチは、「クレイジーなゲームだった」。試合後はフィフティーンへ「私に禿げろと言っているのか?」と問いかけたのだと笑った。
「自分たちは完璧じゃなかったが、先週(横浜キヤノンイーグルスに敗戦)を思えば結果はよかった。最後のシーンではレジリエンス(忍耐強さ)を見せてくれた」