国内 2022.02.02

失点してもすごかった。東京サントリーサンゴリアスのサム・ケレビは「高い基準設ける」

[ 向 風見也 ]
失点してもすごかった。東京サントリーサンゴリアスのサム・ケレビは「高い基準設ける」
1月30日のブラックラムズ戦でも攻守にアグレッシブだったサンゴリアスのサム・ケレビ(撮影:高塩 隆)


 ハードワークとは何か。サム・ケレビが答えを出した。

 オーストラリア代表38キャップ(代表戦出場数)の28歳は1月30日、東京サントリーサンゴリアスの13番をつけた。東京の秩父宮ラグビー場で、リーグワン・ディビジョン1の第4節に挑む。

 チームは前半35分以降、数的不利を強いられた。レッドカードのためだ。しかし後半38分、左PRの祝原涼介の逆転トライで36-33と勝利。通算2勝目を狙っていたリコーブラックラムズ東京を下し、ディビジョン1唯一の開幕4連勝を飾った。

 際立ったのは、劣勢時の献身だ。

 自陣ゴール前で相手ボールラインアウトを迎える際は、祝原いわく「一人ひとりが仕事をした」。向こうが作りたかったモールの組織形成を、かすかに狂わせる。

 そのエリアで反則を取られても、アドバンテージ(反則をされた側に有利な場合の試合継続)の間は必死に防波堤を作る。

 相手SOのアイザック・ルーカスがキックパスを通した瞬間も、捕球役にはCTBの森谷圭介がロータックル。ボールがこぼれるや、近くにいたWTBの中鶴隆彰がすぐに拾った。

 点を取られた場面でも、簡単に点を取らせまいとする意志をにじませた。

 表現者のひとりが、ケレビだった。

 勝ち越しを許した後半35分は、自陣ゴール前左のラインアウトからの連続攻撃に耐える。9つ続いたフェーズ中、終盤の5フェーズのうち4つの局面でタックルを放つ。相手をその場で倒すや、すぐに防御網へ入る。次なる刺客の足元へ刺さる。

 トライを奪われるひとつ前の局面でも、相手の走者を押し返していた。

「自分自身に高い基準を設けています。試合をドミネートしたい気持ちを持っています。ディフェンスでも、アタックでも、チームメイトにエナジーを与える。隣のチームメイトを助けたい気持ちがある。14人になった時は特に、です」

 本人が話したのは、さかのぼって約2年前。都内のクラブハウスで、即席のインタビューに応じていた。

 当時は、新型コロナウイルスの流行が本格化するよりも少し前だった。ワールドカップ日本大会の直後でもあり、併設のグラウンドの前には柵が設けられた。殺到する見学客から選手を守るためだ。

 ケレビは全体練習と自主トレーニングを終えると、その柵の前でサインを書き続けていた。

 フィジーにルーツを持ち、「近づきがたい存在になりたくない」をモットーとする。その開放的な気風、さらにタフネスぶりを、攻撃面でも発揮する。

 前半16分にハーフ線付近左中間で球を得ると、いったん立ち止まるやステップを踏み、加速。そのまま2人の防御を巻き込む。圧を受けつつも持ちこたえ、後ろにいた右PRのセミセ・タラカイにパス。タラカイが突進すればそのサポート役に回り、球を守る。

 ここからFLのショーン・マクマーンが抜け出すと、ケレビは左へ回る。

 SHの齋藤直人ゲーム主将からパスをもらうや、目の前にいる2人のタックラーの間へ駆け込む。やはり2人を引きずりながら、右手一本でのオフロードパスを放る。受け手のNO8のテビタ・タタフが前に出ると、その左脇ではすでにケレビが並走。このシーンは結局、得点にはつながらなかったが、妙技と献身が好機を作ったのは確かだった。

 時代が変わる前の問答を通し、その要諦を語っていたものだ。

「自分が(目の前の)スペースを取り(攻略し)に行く。するとその外側の相手が(自身に)寄ってくる。こうなれば、外側にスペースが空きます。ラインブレイクをする時は、自分のサポートがどこにいるかを意識しなければいけません」

 そう。今回もオフロードパスを仕掛けるよりも前の時点で、タタフがフリーで待っているのを「意識」していたろう。あの日は涼しげに、こうも述べていた。

「私がボールを持った時、2人の選手にタックルをされるのはもともとの(よくある)ことなので。そんな時、ボールは自分で運ぶよりも近くの仲間に渡したほうがいい。ただラインブレイクするだけじゃなくて、周りがどんな動きをしているのかを常に見ていかないと」

 14人でプレーしている時も、後半7分のトライアシストなどで魅した。試合後、祝原は殊勲のマクマーンとケレビについて聞かれた。強固な組織に大物が加わる意味合いを、端的に語った。

「あの2人がキーマンになってくれて前に出ていた。(2人が)ゲインした後にいいキャリーをしてくれる選手は他にもいたので、サントリーのアグレッシブアタッキングラグビーが意識的に体現できていた」

 第3節は不戦勝で、第2節から先発を10人入れ替えて臨んだ第4節。開幕から先発し続ける世界的名手が、要所を引き締めた。

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