前指揮官にも雄姿届ける。京産大の船曳涼太が感じたトライの重み。
この冬、ゴール前で悲喜を味わった。
「個人のプレーでもミスが何回かあって、チームに貢献できることはがあまりなかったです」
船曳涼太。京産大ラグビー部の2年生WTBだ。本人の言葉とは裏腹に、今度の大学選手権では攻守で躍動した。
2021年12月26日の準々決勝では、前半4分に技を示す。敵陣22メートルエリア右で、球をもらう前に左から右大外へ大きく膨らむ。パスを得た頃には防御を振り切り、先制トライを決めた。
この午後は、球を持たない場面でも持ち前の速さを活かす。
特にキックチェイスで魅する。味方の蹴ったボールを「1人は追う」というシステムのもと、捕球役に迫る。向こうの蹴り返しを鈍らせれば、味方が望む位置から攻め返せる…。そう、イメージした。
ハードワーカーの船曳がもっとも注視されたのは、前半31分頃のファインプレーだ。
対する日大にアドバンテージ(反則された側が有利とあってプレーが続く状態)が出ていたなか、自陣インゴールエリアの右中間まで駆け戻る。
相手走者の持つ球を、はじく。
会場の埼玉・熊谷ラグビー場を沸かせた、必死にトライを防ぐプレー。その動画は、間もなくSNSで拡散された。京産大は結局、27-26とわずか1点差で勝った。クラブ史上15季ぶりとなる全国4強入りの裏には、船曳の一手が確かにあった。
トライを獲り、トライを防ぐ。かように勝負強さを示したエースだが、準決勝ではその攻防に泣く。
1月2日、東京・国立競技場。23-20と3点リードで迎えた、後半12分のことだ。
船曳がいたのは、敵陣22メートル線付近の右タッチライン際だ。防御ラインの背後へ駆け上がる。パスをもらう。
一度は、追いすがるタックラーに倒される。すぐに起立。ゴールラインに迫る。
あとは飛び込むだけだったが、最後は、対する奥井章仁に阻止された。自身と同学年でもある対戦校のNO8からタックルを浴びて、手中の球を落としてしまう。
以前の自分がしたプレーを、別な相手にされた格好だ。
ノーサイド。30-37で惜敗。公式会見で悔やんだ。
「日大戦でトライセーブをして、逆にきょうはトライセーブをされて…。ゴールラインが見えてトライができると思ったのですが…」
身長180センチ、体重85キロ。神戸市立科学技術高にいた頃は、全国大会と縁が遠かった。一気に台頭したのは、京産大へ入ってからだ。誘ってくれた当時の伊藤鐘史監督のもと、1年目から正FBに定着する。
指揮官はわずか1季で辞任も、船曳はこう願っている。
「いま、鐘史さんはチームにいないですけど、どこかで自分のランを見ていてくれたらな、という感じです」
廣瀬佳司監督が就いた今季は、最後尾のFBから端側のWTBへ転じた。ここで活かしたのは、持ち前の探求心だ。
海外のスーパープレーの動画を見るのが好きで、「ライン際で相手にぶつかられながらもトライする場面を結構、観て。(自分の試合で)外にスペースがあった時は、そのイメージが勝手にわく」。積み重ねの成果を大舞台で活かし、ナショナルスタジアムへ乗り込んだのだ。
いまは防御に課題があるのだと言いつつ、自信も口にする。
「昨年は大学ラグビーで通用する部分があまりなくて。でも、今年はスピード、フィジカルで去年よりは(好感触)」
準決勝で戦った帝京大は結局、4季ぶり10度目の優勝に喜んだ。ひたむきさを貴ぶ京産大は、来季こそ初の日本一に輝きたい。
船曳は「来年ももう一度、国立に立って、今度は笑顔で終わりたいです」と前を向いた。