ルールに屈しない! 常翔学園・笛木健太、「一気」のスクラムで全国100勝。
通算100勝。その瞬間に巡り合った。
「去年のチームも『100回大会で100勝を…』と言っていて、最後は悔し涙を流した。それを見てきたので、(今年)達成できてうれしいです」
東大阪市花園ラグビー場の取材エリアで、常翔学園3年の笛木健太が声を弾ませる。
2022年元日。第101回全国高校ラグビー大会の3回戦で、同大会での通算勝利数を3桁の大台に乗せた(2007年度までの大阪工大高時代からの通算)。134勝の秋田工、105勝の天理に続く歴代3位の記録だ。
殊勲者の言葉通り、前年度のチームは「100回大会で100勝」というきりのよい目標を果たせなかった。王手をかけて臨んだ3回戦にあって、後半のラストワンプレーで逆転を許したのだ。現日本代表のワーナー・ディアンズを擁する流経大柏に、17-21と屈した。
今度の3回戦も接戦だった。昨季16強の石見智翠館が、鋭く粘り強い防御で常翔学園の落球を誘う。しかし、そのたびに常翔学園の伝統芸が光った。
スクラムだ。2点差を追う後半13分頃、自軍のミスで与えた相手ボールの1本をプッシュ。反則を誘う。その約2分後には、敵陣ゴール前でやはり相手ボールスクラムを押し返す。ターンオーバー。NO8のファイアガラ義信ダビデがトライを決め、スコアを17-12とした。
その後はSO仲間航太副将のキックで、首尾よく陣地を得る。向こうの反撃を封じる。
ノーサイド。20-12。
スクラムの最前列右に入った笛木は、不織布マスクの奥で笑顔を作ったはずだ。
「いままでこだわってきたスクラムでボールを取った。それがトライにつながった。3年間の積み重ねが実った気がして、あの瞬間は心にきました」
日本の高校ラグビー界には、「1.5メートルルール」がある。安全性を確保すべく、スクラムでの1.5メートル以上の押し込みは禁止。組み合う時間、距離ともに短縮化されるため、相手ボールを奪ったり反則を誘ったりするのはより難儀となっている。
しかし野上友一監督は、「(スクラムは)FWプレーの基本」。卒業後も競技を続ける教え子のため、高校によっては後回しにするスクラム強化に時間を割いている。
身長177センチ、体重104キロとがっしりした笛木は、「常翔のフロントロー(最前列)に憧れて入学した」。複数ある大阪の強豪校からいまの進路を選んだのは、このクラブの文化が好きだったからだと話す。
入学当初を振り返って「最初はなんでこんなに組むんかなぁと思うこともありました」と笑うが、今度の勝利で「スクラムは身体で覚えるもの。3年間、毎日、組んできて、こうして成果が出て…。間違っていなかったと思いました」。現行ルールのもとでも、自分たちの強みを活かすのが常翔学園のフロントローだと信じる。
「1.5メートルのなかでも(ボールを)取り返していこうと練習してきました。1.5メートルを、じわーっとではなく、一気に押す。一気に1.5メートル出る。8人全員でバインドして、真っ直ぐ出る。それだけなんですが、それを毎日やることで意識づけされて、本番でできる。(この日は)全部、(ボールを)取れるつもりで押していました」
3日の準々決勝では、前年度8強の東海大大阪仰星とぶつかる。高校日本代表候補でもある笛木が、持ち場で真っ向勝負を仕掛ける。