【ラグリパWest】4連覇に挑む。奈良工業高等専門学校
高専界での偉業は周囲が思うだけか…。
監督の森弘暢はいたってのんびりしたものだ。
「4連覇って、都城もでしたっけ?」
事実は仙台(名取キャンパス)のみ。森の率いる奈良はそこに肩を並べる可能性がある。
年明けの1月4日、花園の高校大会の裏で、高専の全国大会が開幕する。開催場所は神戸・ユニバー記念球技場である。
高専とは工業高等専門学校のことを差す。5年制。中学卒業後、理系の専門分野を学び、短大卒の資格を得る。奈良の学科は5つ。機械、電気、電子制御、情報、物質化学。就職や4年制大学への編入実績もよいため、偏差値は高い。国立の学校が多く、奈良もそのうちのひとつだ。
そんな高専で学ぶラグビーマンにとって全国大会は1年の総決算である。奈良は52回の大会史上において2校目の4連覇に挑む。大会出場は16年連続21回。それを決める近畿大会が11月20日にあり、神戸市立高専に50−10と圧勝した。
ラグビー部を持つ高専は近畿地区に6つあった。しかし、今は少子化の影響などもあって半分の3つ。大阪府立大学高専はケガ人の多さで近畿大会を辞退した。負けた神戸は開催県枠で全国大会に出場する。
「神戸はケガ人が多く、大変だったようです」
高専は高校と同じで試合当日のメンバー登録は25人。神戸は5人少ない20人だった。だだ、奈良も23人と登録用紙を埋めるまでにはいかない。
奈良と神戸、それに仙台を加えた3校はその強さから高専界の「御三家」と称される。全国大会の最多優勝は仙台の14。宮城工専時代も含める。4連覇は44〜47回大会(2013〜2016年度)。続くのは神戸の10。奈良はこの3校の中では最少の4だが、直近8大会での決勝進出は7。もっとも勢いがある。
その創部は学校創立翌年の1965年(昭和40)。森は4代目の監督である。奈良に限らず、高専の本分は勉強であるため、練習時間は潤沢ではない。奈良は平日、放課後の2時間を充てるのみ。成績不振者には部活停止の措置もとられる。グラウンドは土。サッカー部と共有。ただ、余地を残して400メートルトラックが入るほど広いため、横は正規サイズの70メートルがとれる。
「今年、力を入れたのはディフェンスですね。スペースを押さえ、まっすぐ上がって行く」
森は地面から黄色い鉢植えの添え木のようなもので、1メートル四方ほどの空間を作る。そのゲートをくぐらせ、タックルさせる。
<速く、低く、消える>
これがキーワードだ。
選手たちは最初、インパクトだけ。徐々にスピードを上げる。自然とロータックルが身につく。半分に切ったタックルバッグを購入する必要はない。森はアカデミックな学校の指導者らしく、アイデアを用いて、お金がかからないように強化をしていく。
森の本業は体育の准教授。奈良教育大でラグビーを始めた。郡山高時代は陸上選手。コーチングは独学である。教官室の前にはラグビーマガジンなどが詰まった本箱がある。
「ラグビーから指導のヒントを得ることはあまりありません」
専門書をベースに自由な発想が沸く。添え木のゲートは専門だったハードルから得たように見える。コーチとしての評価は低くない。近畿地区の17歳以下代表の監督などを経験している。
ただ、その指導力もコロナにはかなわない。影響は2年連続で出る。
「試合ができませんでした。普通は月に2回はやります」
昨年は近畿大会まで3試合。今年は5試合。基本的には高校生と対戦する。
「夏休みの8、9月は対外試合禁止でした」
3月は近大和歌山、翌月は滋賀学園、7月は奈良朱雀と和歌山工、10月は再び和歌山工だった。この5試合はすべて勝利した。
そのコロナ禍での意思疎通に森が考えたのが「コア・リーダー」だ。
「初めての試みです。選手の自主性を引き出せていると思います」
最上級生の5年生は8人。主将はプロップの甲元蓮羽(こうもと・れう)。甲元を含め幹部4人を除いた残り4人をコア・リーダーとして、その下に15人の下級生を割り振った。
練習中でもこのコア・リーダーを軸にして話し合いをさせる。小さい、5人ほどのユニットなので、下級生も意見を出しやすい。最上級生も全員がリーダーシップを持ってチームを引っ張れる。
「5年生は下級生の時から試合に出ています。今年は充実したチーム編成ができますね」
それは単に技術的な部分にとどまらない。精神的なところも大きい。
全国大会の組み合わせは12月13日、主催となる日本ラグビー協会から発表された。奈良は第1シードになり、10校の組み合わせの一番上に来た。
初戦は同じ国立の佐世保。1月5日、午前11時にキックオフされる。この試合を含め、3つ勝てば4連覇は成される。
甲元は力強い。
「僕達は家族を含め、たくさんの人たちにお世話になってここまで来ました。その人たちのためにも勝ちます」
森の鷹揚な感じとは違い、20歳の主将は若いだけにまっすぐに先を見つめた。