コラム 2021.11.12
【ラグリパWest】赤い旋風。田村誠 [トヨタ自動車/豊田自動織機元監督]

【ラグリパWest】赤い旋風。田村誠 [トヨタ自動車/豊田自動織機元監督]

[ 鎮 勝也 ]



 大学選手権は8校制。関東の出場枠は4。対抗戦とリーグ戦の4位までがたすきがけで戦う交流試合で出場校を決めていた。帝京は対抗戦4位。早稲田を破った勢いでリーグ戦1位の法政を13−10で破る。
「満足でした」
 20回目の大学選手権に初出場を決める。深紅のジャージーから「赤い旋風」と呼ばれた。

 その快進撃も大学選手権で止まる。初戦で同志社に4−31で敗れた。
「強いっすもん」
 関西の雄は3連覇の2年目。ロックに父の同級生の大八木淳史、センターに平尾誠二を擁していた。2人とも日本代表だった。

 父はトヨタ自動車に入社する。スタンドオフとして日本代表候補。1998年から3季、2002年から5季、それぞれ監督と部長をつとめた。2008年から8季、出向して豊田自動織機で監督をする。サンウルブズの初代GMやワールドカップの組織委員会にも入った。

「ラグビー部の部長は専任だったので、2007年の1年を除いて、20年ほどラグビーに携われました。会社には感謝しています」

 競技を始めたのは國學院久我山に入学後。高3時の59回全国大会は準優勝。目黒(現・目黒学院)にサヨナラトライを許した。14−16の決勝戦は語り草になっている。

 進路を決める頃、足首を骨折した。希望する大学はあったが、監督の中村誠に言われた。
「帝京にしておけ」
 恩師の言葉通りに大学に進み、歴史を作り、妻になる真奈美に出会う。

 今、母校はこの国屈指の強豪になった。大学選手権の出場は22大会連続28回となる。
「岩出先生は素晴らしい。大学は毎年、選手が変わる。その中で9連覇を達成された。本当に感謝しかありません」

 父は10月30日に60歳の誕生日を迎え、翌31日に定年を迎えた。引き続き、再雇用を受け、スポーツ強化・地域貢献部で働く。ラグビーを含め野球やバスケットボールなどの強化のためにアドバイスを送る。

 長男の優は来年1月で33歳。キヤノン、そして日本代表のスタンドオフとして67キャップを持つ。11月6日のアイルランド戦には先発した。次男の熙は28歳。サントリーでスタンドオフとセンターをこなす。

「ラグビーってひとりでは何もできないスポーツです。周りの人、コーチやメディカルや仲間、そして家族なんかを巻き込みます。だからこそ、2人には周囲への感謝を忘れないように生きてもらえたらと思います」

 自分もそうやって、赤い旋風を起こせた。そして、還暦。子供たちも満足の人生を歩んでほしい。男親の強い思いがそこにはある。

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