コラム 2021.11.12
【コラム】アウェーで見たいタフさ

【コラム】アウェーで見たいタフさ

[ 向 風見也 ]

「選手がグラウンドを選ぶことは難しい。マネジメントがベストな仕事をして、選手は選手としてグラウンドで表現できるよう準備する。選手、マネジメントが全員でそうできたら、いい結果が生まれてくるんじゃないですかね」

 こう言葉を選んだのは、リーダーの稲垣啓太。スクラムを教える長谷川慎アシスタントコーチは、芝の影響を受けないための工夫について語っている。

「いま、ここ(練習場)では滑ったけど、ハイブリットなら(ここまで滑らないから)もう少し攻めて(相手に仕掛けても)もいいよ…。そういう話をしていました。キャプテンズラン(試合会場での前日練習)では、100パーセントじゃないにしても8対8でグラウンド上でスクラムを組みます。FWはポイント(式のスパイク)を持ってきて、芝の感触を確かめることは必ずします」

 11月のアイルランド代表戦へは、「『ここで練習したい』とリクエストを(先方へ)出している」と遠征前の藤井。あらかじめ使いたい練習施設を先方に伝えることで、少なくとも辺鄙な場所へ案内されないよう努めた。情報管理については「向こう(現地)に行ってから」と続けた。

 B&I・ライオンズ戦で代表デビューを果たした齋藤直人は、国内合宿が始まる前から敵地で首尾よく過ごすための「慣らし運転」をしていた。

 本拠地のグラウンドに出る時は、身軽に動けてもともと重用していたポイント固定式のスパイクだけではなく、ぬかるむ芝でも滑りにくいポイント取り換え式のスパイクも使うようにしたのだ。

 現地入り後、ジョセフヘッドコーチは話した。

「今回は自分たちが慣れているホテル、グラウンドを使用できています。問題ないです」

 そして当日は、長谷川コーチが懸念していたスクラムで手応えを示したような。相手ボールの際も一丸となり対抗。7月までにあった、足を滑らせたように映るシーンは見られなかった。敵地で自分たちの型を表現する術が、徐々に磨かれているのだろう。

 裏を返せば、オフ・ザ・フィールドの準備に敗因を求めづらくなってきている。

 そもそも、2016年秋に発足したジョセフジャパンは、選手にあらゆる意味での「タフさ」を求めてきた。

 2015年までのエディー・ジョーンズ体制が当日の対戦カード、試合会場、天候を想定して周到な準備をしてきたのに対し、ジョセフ体制は、試合当日に何が起きても乗り越えられる状態を目指してきた。

 日本大会前、前主将のリーチ マイケルがジョーンズ時代の雨対策を踏まえて「ボールに石鹸をつけて練習してみては」と提案も、ジョセフには却下されたという。それまで磨いたスキルを信じて発動すべき、との思いがあったか。環境を言い訳にせずに「タフさ」を提出するのが、この人たちの本来の真骨頂だ。

 欧州遠征は残り2試合。アウェーの洗礼はもちろん、相手国の強さにも負けない「タフさ」は見られるだろうか。

【筆者プロフィール】向 風見也( むかい ふみや )
1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年よりスポーツライターとなり、主にラグビーに関するリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「スポルティーバ」「スポーツナビ」「ラグビーリパブリック」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(共著/双葉社)。『サンウルブズの挑戦』(双葉社)。

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