海外 2021.11.11

フランスの“銀河系軍団”トゥーロン、変革の時。

[ 福本美由紀 ]
フランスの“銀河系軍団”トゥーロン、変革の時。
熱いトゥーロンのファン。今季トップ14では10節を終えて3勝1分6敗で12位(Photo: Getty Images)


「ここではすべてが違う」
 ラグビークラブ・トゥロネ(以下トゥーロン)のスローガンだ。
「ここには、少し過剰なところがある、時には度を越すことも。それがポジティブに働けば成功する。ネガティブに働くと失敗になる」と言うのは、2020年2月にトゥーロンの会長に就任したベルナール・ルメートル氏だ。

 ジョニー・ウィルキンソン、マット・ギタウ、バッキース・ボタなど、ここに名前を書ききれないほどの世界のスター選手を次々とリクルートし、銀河系軍団と呼ばれるチームで、2013〜2015年に3年連続ヨーロッパチャンピオン、2014年はフランス国内チャンピオンにも輝いた。

 しかし、2016年、2017年もトップ14の決勝進出は果たしたが、かつての勢いは感じられなくなっていた。

 そこで、当時の会長であったムラド・ブジェラル氏は、クラブ傘下で養成した若手選手中心のチーム作りに方針転換し、その指揮を委ねられたのが、スター不在のラ・ロシェルを率いてクラブの基盤を築き、2016年にトップ14昇格1年目でセンセーションを起こしたパトリス・コラゾ ヘッドコーチ(以下、HC)だった。

 コラゾHCの目に留まり、2部リーグからトゥーロンに入団したWTBギャバン・ヴィリエールは、トゥーロンだけではなく、フランス代表でも中心人物になった。また、今季2部リーグから入団したばかりのFBエメリック・リュックも、今年のオータム・ネーションズシリーズの準備合宿メンバーとして代表に招集されている。若手の発掘・育成に長けたコーチである。

 しかし、2018年着任以来の成績は9位止まり。コンスタントに勝つことができなかった。さらに今季のプレシーズンは、主力選手が負傷、または代表活動のため不在で、ほとんどエスポワールの選手ばかりで練習再開、新シーズンに向けて思うような準備ができなかった。

 また、厳しいことで知られるコラゾHCのメソッドに不満を抱く選手がいたことで、選手間でも分裂が生じていたこともチームの士気を下げた。
 結果、試合でも一体感を欠く。第8節のラ・ロシェル戦で6-39と完敗し、その時点で13位になった。

 それまではコラゾHCを擁護していたルメートル会長も、ついに辛い決断をせざるを得なくなった。
「パトリス(コラゾ)の真剣で熱心な取り組み方は、一般の企業であれば報われる。そう思って待っていた。でもトゥーロンのようなクラブで成功するために何が必要なのか把握できていなかった。これは私の失敗だ」と述べている。

 翌週、火曜日にコラゾHCの退任が発表された。そして木曜日には、昨季までクレルモンでHC、今季はテレビでトップ14の試合の解説をしていたフランク・アゼマが新HCに就任したことが発表された。8月末のチェズリン・コルビの電撃移籍同様、今回も電撃だった。
「彼のような素晴らしい実績を持つコーチがフリーだった。この機を逃す手はなかった」とルメートル会長。アゼマ新HCも「トゥーロンのような強いアイデンティティーを持つクラブは多くない。とても光栄であると同時に重大な責任を感じるが、ポジティブなプレッシャーだ」とそれぞれ入団発表会見で述べた。

トゥーロンのヘッドコーチに新任したフランク・アゼマ(Photo: Getty Images)

 もちろん、「これはパトリスの責任じゃない、僕たち選手の責任だ」とコラゾHCの退任を惜しむ選手の声も少なくなかった。

 そのような状況の中で、アゼマHCがトゥーロンで初めて指揮をとったのが、奇しくもアウェーでのクレルモン戦。思いもしなかった形で、かつての本拠地・ミシュラン(クレルモンのホームスタジアム)へ帰還した。

 試合は31-16でクレルモンの勝利で終わった。トゥーロンは終始プレッシャーを受け、ペナルティを繰り返し、イエローカードも2枚出された。
「気持ちが入りすぎた。しかし選手は80分間団結していた。1週間しっかりと準備に取り組んだが、3回の練習では結果は出ない。この気持ちのまま上達していかなければ」とアゼマHCは試合後コメントした。

 この試合中、ミシュランのスクリーンにアゼマHCが映し出されると、観客から拍手が沸き起こった。また、試合後ロッカールームに帰るクレルモンの選手がアゼマのところに握手をしに行く。今もクレルモンにとって大切な人物であることがよくわかる。

 トゥーロンに5年在籍した、元フランス代表キャプテンのギレム・ギラドは、ペルピニャンのジュニア時代にアゼマの指導を受けている。
「パトリスがこのような形でチームを去ることになったのはとても寂しいことだが、フランク(アゼマ)は経験豊富なコーチで、落ち着いていて順応力もある。実直で思いやりもあり、今の困難なトゥーロンの状況にも適応してチームを救うことができるだろう。また、ラグビーを熟知している熱烈なトゥーロンのサポーターにもきっと受け入れられるに違いない」と太鼓判を押している。

 今週からトップ14は、2週間のブレイクに入り、選手たちも1週間休暇がもらえる。
「選手は難しい時期を過ごしてきて、休暇を必要としている。一緒にチームを立て直していくためにも、気分をリフレッシュして戻ってきてもらうことが大切」と言うアゼマHC。

 休暇が明ける頃には、セランやパリセらの復帰が予定されている。また代表選手も帰ってくる。12月にはコルビも復帰予定だ。

 ルメートル会長は「強いチームは、クラブで養成された若手選手と、トップ14の経験豊富なベテラン選手、そして2〜3人のスター選手がうまくかみ合っている」と言うが、トップ14でのベテラン選手がトゥーロンには足りない。銀河系軍団と言われていた時代の若手選手がクラブに残っていられなくなり流出してしまったところに端を発しているのではないか。

 まさに変革の時である。アゼマHCの手腕に期待したい。

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