国内 2021.11.11

決戦は日曜日。花園まであと1勝の成蹊高校、久我山戦へわくわく

[ 編集部 ]
決戦は日曜日。花園まであと1勝の成蹊高校、久我山戦へわくわく
CTB大塚翔太主将(左)とPR西澤恭平



 決戦の7日前、11月6日の空は青く澄んでいた。
 成蹊高校ラグビー部の練習が13時45分に始まる。リラックスした空気が漂っていた。
 実戦的な練習のときには、ほどよい緊張感があった。

 アタック・ディフェンスのときだった。
 仮想・久我山チームが攻撃時にミスした。そのボールを手にした選手が迷わず切り返すと、周囲の選手たちがすぐに呼応した。
 防御から勢いを得るチームだ。全員の頭の中には、ターンオーバーから攻めるイメージが共有されている。

 10月31日、同校は花園予選の東京第一地区準決勝で明大中野に12-7と競り勝った。
 雨の中、特にFWが体を張って粘り、相手を1トライだけに抑えた。
 11月14日、聖地へ向かう切符を手にするために國學院久我山高校と戦う(江戸川区陸上競技場)。

 予選のファイナリストになったのは2005年以来のことだ。
 16年前は東京高校に19-17と逆転勝ちを収め、31年ぶり、4度目の花園出場を決めた。

 現役時代は日川高校、筑波大で楕円球を追った土屋嘉彦監督は、同校の指導にあたって34年。前回の決戦のときもチームを率いていた。
 明大中野戦を終えた後の数日間は、選手たちにリラックスする時間を与えた。
「うちはチャレンジャー。体をぶつけていくしかない」
 選手たちの姿を見て、「気持ちが入っている」と頼もしそうだ。

 ただ、16年前に決戦を制して全国へ向かった経験は、今回は関係なさそうだ。
 当時と今年のチームは、まるで様相が違うと話す。

 2005年のメンバーには、CTB三雲淳主将やSH池田元など、才能あふれる選手が多くいた。
 190センチ超のLO中田英里(のちに早大、東芝、清水建設でプレー)がFWの核となり、WTBにはスピードスターの金本智弘(のちに慶大)。
 東京予選の決勝では、その金本が逆転トライを奪い花園を決めた。

 今年のチームに大駒はいない。監督は、「全員が動き回って戦うチーム」と目を細める。
 16年前の先輩たちとは違う才能を持っている。
「気持ちが強い。苦しい練習を頑張ってやり切れます」 

 フィットネストレーニングは、前年より増えて週3回。積み上げてきた体力はディフェンスの粘りを呼び、明大中野戦ではゴール前で必死に体を張り続けた。
 PR西澤恭平、LO土方太朗、FL加藤彪伊、CTB大塚翔太らは力強く走り、1年生SOの島谷悠真は視野が広くクレバーも、やはりチームの強みは泥臭い防御。相手を前で止めてリズムを作る。

 0-76。
 チームの上昇は、屈辱的な敗戦がきっかけになった。春季大会で東京高校に大敗(3回戦)。悔しくて目の色が変わった。
 強豪校が相手とはいえ、仕方ないと思わず、クソッとなった。
 それも才能。
「ジャイアントキリングをしてやる。もう、負けたくない。そんな気持ちを感じました。そのためにもディフェンスから、となりました」(土屋監督)

 部員は31人。成蹊小、中からの仲間もいるが、3分の1は高校からラグビーを始めた選手たちだ。
 コミュニケーションを取り合い、助け合いながら全員で力をつけてきた。つながりを大切にする。
 今春就任した蓬来直樹コーチ(成蹊→筑波大。今春から成蹊中の英語教員に)がFWを強化したことも大きい。

 大塚主将はチームワークを大切にする男だ。コロナ禍も工夫をして一人ひとりに目を配った。
「個々に目標を持ってもらい、SNSのツールを利用して全員で共有しました」
 自分の定めたターゲットを仲間たちが知っている。責任感とモチベーションが高まった。
 主将は「(みんなの)自主性を感じるようになった」と話す。

 大塚は4歳のときに相模原ラグビースクールに入り、中学から成蹊ラグビーの中に身を置く。これまで、HO、FL、NO8でもプレーしてきたからタテに出る強さが魅力。タックルも強い。
「都立青山戦、明大中野戦と、ダブルタックルで、前で止める自分たちのスタイルを出せました。決勝でも思い切りプレーしたい」
 チームは今予選、初戦の合同B(日大二、三田国際、駒込、東工大附)戦に17失点(47-17)。それが最多失点で、その後は41-0(対青山)、12-7(対明大中野)と、試合を重ねるごとに防御は引き締まっている。
 決勝でもロースコアゲームに持ち込みたい。

 PR(1番)の西澤が、一戦ごとに深まった自信について回想する。
「青山高校は凄くいいチームでした。その相手に完封勝ちしたことで自信がつきました」
 明大中野相手にも、自分たちが信じてきたことを貫いて勝てた。
「自分たちはサイズで負けているんだから、一人が二人分、三人分動かないと勝てない。そう言って練習してきました。それを出せた試合でした」

 スクラムも踏ん張れた。
「相手は強く、重かったけど、低く、まとまって組む自分たちの組み方をやり続けたらターンオーバーもできた」
 西澤は175センチ、103キロ。同い年の松本康希(CTB)がプレーする姿が格好良く、憧れ、成蹊中でラグビーを始めた。

 決勝戦が楽しみだ。
「強い久我山相手に、やってきたことを試したいし、自分たちの力が通用するか知りたい。勝てば花園。わくわくしています」

 大塚主将も「わくわくしている」と同じ言葉を使った。
「自分たちの知らない舞台ですから。楽しみで仕方ない」
 チームに漂う充実した空気を感じている。「明大中野に勝ってすごく嬉しかったけど、もう切り替えています。一日一日を、一人ひとりがどう過ごすかが大事」と話し、仲間と過ごす毎日を楽しむ。

 少年たちの大仕事に、OBたちを含め、周囲の期待はどんどん膨れ上がっている。
「この子たちは、応援や期待が大きければ大きいほど、それを自分たちの力にできるタイプ」
 そう話す土屋監督自身も日曜日が待ち遠しいようだった。
 自分の想像を超える成長の軌跡を描いてきた教え子たちと一緒に12月、西へ向かいたい。

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