「笑顔、成長、勝利。 見たいものがたくさんある」。宗像サニックスの松園正隆新監督は、こんな人。
心待ちにしていた光景が見られるようになって嬉しい。
今季からブルースの指揮を執る松園正隆監督はそう言って目尻を下げる。
10月に入ってチーム練習が本格化した。新監督が笑顔になるのは、同11日から玄海グラウンドでのトレーニングをファンに見学してもらえるようになったからだ。
「初日から、何人かの方々が足を運んでくださいました。本当にありがたい。(コロナ禍の中で)待っていた光景でした」
選手たちは春から一人ひとり、個々の力を高めてきた。夏からチーム練習をはじめ、プレシーズンマッチを控え、指導陣、外国人選手たちも揃った。
秋になり、日々の練習に熱がこもる。
松園監督はその雰囲気を感じて「いいスタートが切れている」と言う。
「プレシーズンマッチへ向けての準備を進めています。戦術を説明し、理解してもらう時間。アタックスキルを高め、シンプルなラグビーを攻撃的に。ヘッドコーチのダミアン(カラウナ)ともそう話しています」
昨シーズンまでとは大きく顔ぶれが変わった選手たちを眺め、「これまでいた選手、入ってきてくれた選手が互いに刺激しあってくれている」と感じた。
新しい空気は心地よくもあり、それによって起こる変化に落ち着かないこともあるだろう。
「選手たちには、その刺激を利用して人間力を上げようと言っています」と話す。
新監督はブルースファミリーの中でお父さんのような存在だ。
現役時代はフロントローとして活躍。佐賀工、日体大を経て、チームがまだ西日本社会人Bリーグで戦っていた1996年にサニックスに加わった。21年に渡ってプレーした。
ミスター・サニックスラグビーの呼び名が似合う。ブルースの公式戦に158戦も出場した。
トップリーグでも大きな足跡を残している。同リーグに93試合出場。2016年には43歳と2日でピッチに立ち、リーグ最年長出場記録を作った。
そのお父さんは今季新監督に就任して、ラグビー選手である前に、人として成長することをテーマにチームにアプローチした。
宗像市内の街、海岸での清掃活動は、その一環だ。地域への感謝の気持ちの表現。応援してくれる人たちとの触れ合い。そこで感じるものがあるから、と呼びかけた。
「人が育てばラグビーが変わる。チーム貢献への考え方も変わる。そう思っています。実際、地域での活動を続けるうちに、クラブハウスのロッカールームも自然ときれいになった。トイレ掃除を自らすすんでやってくれる選手も出てきた」
意識の変化がピッチ上のプレーにもきっと影響を与える。その瞬間の訪れを楽しみにしている。
今季は主将に屋宜ベンジャミンレイ、副将に高島卓久馬を指名し、ふたりにチームの先頭に立ってもらうことにした。
屋宜は自主性とリーダーシップに溢れる。プロフェッショナルとしての姿勢も示すことができる。期待を込めて大役を任せた。
高島は一度ブルースから離れ、近鉄ライナーズでプレーし、ふたたび宗像に戻ってきた男だ。「他のチームを知って、ブルースを新鮮な目で見られると思っています。人生の勉強もしてきたはず」と期待する。
チームを良くしたいという気持ちが湧き出ているだろう。それをエナジーに牽引してほしい。
松園監督は現役時代、こう話したことがある。ベテランになっても若手と同じメニューに取り組む理由を聞かれたときだった。
「みんなと一緒に練習すると、きついときに誰がどういう顔をしているか見える。高島とか、顔を歪めながらもよく声を出す。そういうのも、大事なんですよ」
何を大切にする指揮官か、よく分かる。今季のブルースは、きっと苦しい時に踏ん張りが効くチームになる。
監督という仕事は忙しい。
チームの進むべき方向の決定、舵取り。ピッチの内外でマネージメントと実務が求められる。
「いつも選手を見つめています。指導スタッフのことも。信頼しているからこそ、よく見ちゃうんですよね」
そんな親心を吐露する。「やることが多くて気が休まることがない」と言う顔が幸せそうだ。
新リーグ、ジャパンラグビーリーグワンではディビジョン3からのスタートとなった。
「必ず優勝して入替戦で勝つ。そしてディビジョン2に上がる。全勝でいきたいと思います」
黙々と仕事をまっとうするのは、フロントローに立っていた頃からの信条だ。
主役は選手。全員が考え、自主的に動くチームになってほしい。