負けたら「罵ってもらった方が楽」。日本代表の稲垣啓太、秋の陣へ覚悟決める。
クールな看板選手である左PRの稲垣啓太は、「出だしはいい印象を受けますね」。ラグビー日本代表候補が10月2日、練習を公開した。
予備軍のナショナル・デベロップメント・スコッドを含めた計44名は、3日前に宮崎でのキャンプを開始。4日目にあたるこの日、午前練習を時限付きでメディアに披露した。
午前9時前からのユニット練習の後、約30分間、休憩やミーティング、ジムセッションのためか練習用のグラウンドを離れる。
11時頃までの約15分間は、全選手が2つのグループに分かれて攻撃、防御のシステムを確認する。報道陣が退場してからは、より本格的な実戦形式セッションへ移ったように見えた。
午後と夕方以降のトレーニングの合間に、稲垣が取材に応じた。
「ミスはありましたし、戦術理解度はまだこれから上がるべきですが、出だしとしてはいい。初日も、普段なら練習後にコンディショニング(身体を鍛えたり、整えたりする時間のことか)があったはずのところ、全員のコンディショニングテストのスタンダードが高かったためにそれがなくなった。ほぼボールゲーム(実戦的なトレーニング)に時間を費やせた。質の高い練習ができた」
2019年のワールドカップ日本大会で初めて8強入りし、今春、体制をそのままに約1年7か月ぶりに活動を再開。いまは今秋の国内外でのツアー、さらには2023年のワールドカップ・フランス大会をにらむ。
1日から合流のジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチが、落ち着いて述べる。
「(一部のコーチ陣がいない)最初の2日間、選手たちはやらなきゃいけないことはしっかりやってきた。選手間は早くつながったと思います」
2020年からパンデミックの影響は避けられず、リスタート当初はフィジカリティ、フィットネスの数値をワールドカップ時の基準に戻すことから始めなくてはならなかった。
今回も、長野・菅平で予定されていたキャンプは中止。集合は、本来の予定より約2週間、後ろ倒しになった。
それでもこのチームは、2016年秋から築いてきた文化を活かす。
稲垣、今回から主将を外れたリーチ マイケル、新主将のピーター・ラブスカフニらリーダーシップグループが、首脳陣の意図をかみ砕いて各選手に涵養(かんよう)。スキルと持久力が際立つスタイルで、「ティア1」と呼ばれる強豪国に挑む。
懸念された身体作りも、7月までの遠征後に各自、スタッフに課されたメニューに取り組む。複数の選手によると、宮崎合宿2日目のフィットネステストでは大半の選手が基準値をクリアしたようだ。さらに今度は、「新たなスタンダード」を構築したいと話す。
ジョセフ ヘッドコーチはこうだ。
「合宿に最初に来て、選手には勝敗に必要なスタッツ(数値)を示しました。ポゼッション、テリトリー、ゲインライン…。ティア1のチームのそれと、自分たちの過去2試合を比較したら、そこにさほどの違いはない。自分たちが勝っているエリアもある。ただ、(試合では)負けてしまっている(今夏は2戦2敗)。そこで、新しいスタンダードを作っていかなきゃいけない。自分たちのフィットネス、スピードはよく、ボール・イン・プレー(プレーを止めない時間)は長い。ボールを保持できると試合にも勝てる。他のティア1のボール・イン・プレーも長くなっているので、その部分で我々は前回よりも高い基準を設けなくてはならない」
絶え間なく動き続けられるのがこのチームのよさだ。ただ、一部の強豪国はそのエリアでも日本代表に匹敵しうる。かねての長所をより際立たせられるよう、高い「スタンダード」を設けたい。それが趣旨だろう。
かような「スタンダード」のリニューアルに関し、稲垣は「周りが我々のラグビーを見て『これくらいのスタンダードに達しないと日本代表になれないんだ、見習いたい』と思われるようにならなくては」。組織の形を保ちながらのマイナーチェンジは、合宿のスケジューリングにも及ぶ。従来なら約1週間、身体をいじめ抜いたのちにレストを入れていたが、今回は「2勤1休」のルーティーンを保つようだ。
ジョセフ ヘッドコーチの「いまはコロナ禍で以前のように外に行くことはできない。2日しっかりハードワークして、1日ラグビーから離れる時間を作ることが重要」という説明へ、稲垣はこう補足した。
「(動く)2日に対してどれだけコミットできるか。(練習のない)1日は身体を休め、頭を使うことが重要になる。(休みの間には)全体的なミーティングはないですが、それぞれが個人的に『ここの部分(プレーなど)をフィードバックしよう』と集まる。必要に応じ、コーチにも入ってもらってフィードバックを求める。…ある意味、選手の自主性が問われる1日じゃないかと」
チームは10月15日までにメンバーを絞り込み、23日には昭和電工ドーム大分でオーストラリア代表と激突。以後は欧州へ旅立つ。この国でテストマッチをおこなうのは2019年ワールドカップ以来とあり、稲垣は覚悟を口にする。
「テストマッチは勝たないと意味がない。特に自国でテストマッチをおこなうことにどれだけ意味があるのか、わかっているつもりです。勝つために準備して、それで結果が出なかったら、正直、罵ってもらった方が楽です。そういうレベルに達すべきだと、僕は思っています。そんななか僕らは、そう言わせないようにしないといけない」