日本代表 2021.10.03

フィジー発の韋駄天。ジョネ・ナイカブラ、春に辞退の日本代表で満を持してのデビューへ

[ 向 風見也 ]
フィジー発の韋駄天。ジョネ・ナイカブラ、春に辞退の日本代表で満を持してのデビューへ
とことん真面目。東芝の仲間による評判は上々。(撮影/上野弘明)



 シャイな性格だ。「自分からも、他の選手と話していかなくてはいけません」とはにかむ。

 ジョネ・ナイカブラは宮崎にいる。9月29日から本格的に始まった、ラグビー日本代表の候補合宿に初めて参加する。

「選ばれて嬉しい。今回の合宿(参加)に向けてチェイスしてきたので」

 同日のオンライン取材では、東芝ブレイブルーパス東京で同僚のリーチ マイケル、同じフィジー出身のセミシ・マシレワに仲良くしてもらえていると明かす。

「自分からも…」と述べたのはその話題に触れたときで、「その他、トンガ人の選手とも話しています」とも続ける。

 言葉ではなく、足で魅する。身長177センチ、体重95キロの27歳は、ばねとスピードに定評がある。持ち場はWTB。タッチライン際の走り屋だ。

 ラグビーと出会ったのは7歳の時で、2012年からの2年間はニュージーランドの名門ケルストンボーイズ高でプレー。7人制高校ニュージーランド代表に選ばれた。以前、出世の背景をこう語ったものだ。

「(母国には)大きな選手が多かったけど、僕は足が速くてラッキーだった」

 摂南大を経て東芝入りしたのは2018年。以後、国内トップリーグで活躍してきた。相手選手が群がるキックの落下地点へ臆せず飛び込み、球を持てば防御を置き去りにした。

 日本代表のWTBと言えば、福岡堅樹さんが印象的だ。

 かつてジャパンを率いたエディー・ジョーンズ・イングランド代表ヘッドコーチに「チーターより速い」「ワールドクラスのスピード」と言わしめた現医学生は、2019年のワールドカップ日本大会で4トライを記録。大会初の8強入りで国民を熱狂させた。

 福岡さんが今年5月に引退したいま、新たなスピードスター候補が注目されるのは避けられまい。

 オンライン取材では、福岡にちなんだ質問が飛ぶ。本人は殊勝に答えた。

「自分は彼ほど速くないし、そのレベルまで行けていない。スピード、フィットネスでハードワークして、彼のような道に行きたい」

 代表入りを目指す海外出身者にとってのチェック項目に、エリジビリティ(資格)の有無がある。選手がルーツを持たない、もしくは生まれ育っていない国の代表となるには、当該国での一定期間の連続居住が求められる。その期間は、2021年末までは「3年」と定められている。

 日本代表の藤井雄一郎ナショナルチームディレクターの説明によると、この「3年」はテストマッチデビューを果たすその日からさかのぼって丸3年という意味。その間、一時帰国できるのは各年2か月ずつまでで、社会情勢の変化などに伴う特例は認められないという。今年約1年8か月ぶりに活動を再開した日本代表も、初選出が期待された複数の海外出身者をスコッドに入れられなかった。

 もっともナイカブラに、この手の心配はない。東芝に入りたてだった2018年夏、7人制日本代表としてアメリカ・サンフランシスコでのワールドカップセブンズ2018に出ていたからだ。本人は「前回(今春)の合宿時もエリジビリティはクリアしています。今回も大丈夫」と申告する。

 懸念点を解消していれば、目標は定まる。1日も早く、このチームのレギュラーになることだ。

 宮崎合宿には、予備軍を含め計44名が参加。10月16日以降の別府合宿を前にメンバーが絞られ、同23日には昭和電工ドーム大分でオーストラリア代表とぶつかる。
 その後は欧州へ渡り、アイルランド代表、ポルトガル代表、スコットランド代表と戦う。

「2019年に15人制のワールドカップを見て、15人制でも活躍したい気持ちが出てきた」と話す通称「ジョネ」は、合宿開始前に「目の前のチャンスを掴んでいきたい」と言い切っていた。

「まずはフィットネステスト(30日に実施)でいい結果を出す。その後にテストがあれば、そこでもベストを尽くす。(宮崎)合宿の最後にトライアル(試合形式の練習)があるかもしれない。そこで成果を出し、アピールしたい。トライチャンスでしっかり獲りきる。向こう数週間、ハードワークしていくしかない。毎日いい練習をして、コーチからいいニュース(メンバー入り)を聞きたいです」

 今春のツアー時も候補にリストアップされていたが、招集を知る前に結婚式の予定を組んでいたため「ジェイミーと話し、次から…となりました」。
 結局はウイルスの脅威を鑑み、結婚式は延期させた。まずは、満を持しての代表デビューを叶えたい。

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